816話
5月26日(金曜日)
二週連続でG1を獲った雄太は東京に向かっていた。
(東京優駿……。今年こそ獲りたい……)
何度も何度も見てきた新幹線の窓から流れて見える景色を見ていた。
「雄太、これ食う?」
「え?」
隣で黙って大人しくしていた純也が、大袋に入った海老満月を差し出した。
「これ好きなんだよなぁ〜」
「……ソルはお菓子は何でも好きだろ?」
「まぁ、そうとも言う」
「そうとしか言わないって」
雄太は純也の差し出した海老満月の袋に手を入れて二枚つまんだ。
サクッとした食感や素朴な味が雄太も好きだった。
「久し振りに食ったけど、やっぱり美味いな」
「だよな。ポテチとかも好きだけど、こう言う素朴なのも良いんだよ」
「分かる、分かる。母さんがさ、春香の好きな和菓子屋の桜餅が気に入ったらしくて、毎年何度も春香に買いに連れてってもらってるんだ。ガキの頃ってホールケーキに憧れたりしたけど、和菓子も美味いんだよな」
今年も何度か子供達を連れて買いに行っていた。
子供達はケーキも好きなのだが、春香や理保が買ってくる白餡の桜餅も好物だ。
「あ、前に春さんが土産にって持たせてくれた奴か。桜餅も美味かったけどウグイス餅も美味かった」
「あそこの水無月も美味いんだぜ」
「水無月? うぉ〜。食いてぇ〜」
食い気に忠実な純也が子供達と同じように滝ヨダレを流しているように見えた雄太は、新幹線の車内てあるからと爆笑してしまいそうなのを必死で堪えていた。
純也は駅の土産物屋などを見て歩き、みたらし団子や大福などを買い込んだ。
「あぁ〜っ‼ 何で水無月売ってないんだよぉ〜」
「そもそも水無月は夏越祓って言って、六月三十日に食べるっていうものだから、まだ早いんじゃないのか? 生物だし、ずっと置いておけないだろ?」
「うぅ……。水無月……食いたかったのにぃ……」
そう言いながら饅頭などを買い足した純也と呆れながら笑う雄太は、東京競馬場の調整ルームへ向かった。
調整ルームに着くと、先輩達が目を丸くと言うより、目が点になっていた。
「……おい、塩崎……。お前、旅行にでも行ってたのか?」
「へ? いや、ただ新幹線に乗って来ただけっすよ?」
「だけってよぉ……。お前、何で土産物屋の袋をそんなに持ってんだよ?」
先輩達の言うのはもっともだ。着替えが入ったバッグと一緒に手にしているのは複数の紙袋だ。しかも土産物屋のロゴが入っていて、旅行帰りの人と言ったスタイルたからだ。
「今夜のオヤツっすよ。先輩も食います?」
「今夜の……?」
「オヤツ……?」
先輩達の呆れ顔と引きつった顔がおかしくて、雄太はまたまた笑いを堪えるのに必死だった。
饅頭をモグモグと食べながら、純也はふと思い出したように雄太を見た。
「なぁ、雄太」
「へ? 何だよ」
「サクランボ、どうした?」
一瞬、何を言われたか分からない雄太はマジマジと純也を見た。
「サクランボだよ、サクランボ。雄太ん家に植えてあるサクランボ」
「あ、あぁ〜。アレか。まだ木が小さいからあんまり実がならなくてさ」
「そっか。食いたかったんだよな、千切りたてのサクランボ」
普段、缶詰めのサクランボしか口にしていない純也は、一度自分で穫って食べたいと思っていた。
「全部で50個ぐらいだったかな?」
「ちょっ‼ そんだけあったら俺の分あったろっ⁉」
「いや、俺も春香も三つずつしか食べられてないし、父さんと母さんも二つずつしか食べてないんだ」
純也は目が真ん丸になる。そして、指折り数えだした。
「雄太と春さんで六個……。おっちゃんとおばちゃんで四個……。じゃあ、残りは全部チビーズが、か?」
「ああ。スッゲー勢いで食ってたぞ」
子供達はキャッキャと楽しそうにサクランボを収穫し、洗って冷やしてもらって、一人一人の器に同じ数で分けてやった。
俊洋は種を取ってもらって、あっという間に食べ切っていて、雄太も苦笑いをするしかなかった。
「まぁ、来年を楽しみにしててくれ」
「ああ」
純也は仕方ないなと笑っていた。




