813話
雄太と悠助の誕生会の数日後、現像に出していた写真を取りに行き、リビングで見ていた理保は思い出し笑いをしていた。
トレセンから戻り風呂に入っていた慎一郎がサッパリしたとリビングに入ると、涙を浮かべている理保がいて驚いた。
「ど……どうした、理保」
「フフフ。思い出しちゃって、つい」
理保の手元を覗き込み、慎一郎は口の周りにケーキのクリームをつけて笑っている孫達の姿に目を細めた。
この日はどうしても外せない用事があり、この微笑ましい孫達に会えなかったのが残念で仕方がなかった。
「あなたにはあなたにしか出来ない仕事かあるのですから我慢してくださいな」
「……儂は何か言ったか?」
「何年あなたと一緒にいると思ってるんですか? あなたの考えた事は分かります」
理保の柔らかな微笑みに、照れくさくなった慎一郎は、ふいと窓の外に目を向けた。
窓の外では、凱央達が走り回っていた。
「ア、ジィジ〜」
「ジィジ〜、ジィジ〜」
慎一郎が見ているのに気づいた凱央達が駆け寄ってきた。窓を開けると、凱央の小さな手が慎一郎のゴツゴツとした老いた手に触れる。
「ジィジ、サクランボガデキテルンダヨ」
「え? おお、サクランボが実ってるんだな。大きくなって赤くなったらジィジと一緒に食べような」
「ウン」
悠助もテッテッテと走ってきた。手にはシロツメクサが握られている。
「バァバ、オハナ〜」
「あら、悠助。バァバにお花くれるのね。ありがとう」
二人の兄の後を必死で追いかけている俊洋が転ぶ。泣くのではと慎一郎も理保は思ったが、一人でンショと立ち上がりトテトテと慎一郎と理保のほうに近寄った。
俊洋の後をついて歩いていた雄太も春香も少し驚いた顔をしたが、俊洋が泣かないで立ち上がるとホッとした顔を見せていた。
「ジィ……、バァ……」
「俊洋は泣かないんだな。強い子だぞ」
慎一郎は、俊洋の膝や手についた芝生を払ってやる。
「トトチャ」
「ん?」
「ジィジ。トシヒロハ、チョウチョイタッテイッテルンダヨ」
「お、そうか。凱央、ありがとうな」
慎一郎が顔を上げると、雄太宅の拡張工事をし完成したばかりのウッドデッキの近くに紋白蝶がヒラヒラと飛んでいた。
ウッドデッキの柵には鯉のぼりが泳いでいる。その横には、凱央が幼稚園で作ってきた紙製の鯉のぼりもヒラヒラと風になびいている。
「ジィジ。キョウハ、オソトデゴハンタベルンダヨ」
「そうか、そうか」
午前中、調教が終わった後に雄太から聞いていた慎一郎だが、凱央の話を初めて聞いたようにしてやる。
「ジィジモ、イッショニタベルヨネ?」
「ジィジもか?」
「ウン。バァバモイッショニタベルンダヨ」
うんうんと頷きながら凱央の頭を撫でてやる。
「バァモイットラヨ」
「ありがとう、悠助。ご一緒させてもらうわね」
「アイ」
理保も悠助の頭を撫でてやり、俊洋は慎一郎の膝によじ登ろうとしている。
察した慎一郎はヒョイと抱き上げて、胡座をかいた足の間に俊洋を座らせる。
「準備が出来たら呼びにくるから。ほら、俊洋行くぞ」
「ヤ」
「お前……またか?」
雄太が呆れたように言うと、慎一郎が吹き出した。
「プッ」
「父さん……」
「お前、俊洋に……プッ」
雄太がプルプルと震えていると春香と理保は忍び笑いをしていた。
ウッドデッキにテーブルや椅子を出しての食事に子供達もキャッキャと喜んでいる。
「おぉ〜。立派な鰹だな」
「半分をタタキにして、もう半分は銀皮造りにしたんです」
大きな皿二つに盛られた鰹に慎一郎も理保も驚いて目を丸くしていた。
「春香さん、子供達のこれは?」
「マグロハンバーグです」
「あら、マグロなのね」
子供達はモグモグと美味しそうに食べていた。慎一郎は、鰹を肴にチビチビと日本酒を呑んでいる。
「たまにはこう外で酒を呑むのも良いな」
「ほら、ウッドデッキ全体にポリカーボネートの屋根をつけたから、蚊帳をつけたら夏でも外でこう言うの出来るだろ?」
「ああ、楽しみだ」
慎一郎も理保も幸せそうに笑った。
鷹羽家は平和で穏やかだった。




