812話
雄太は冷蔵庫に行き、フルーツがタップリと乗ったケーキを取り出した。
最初にローソクを立ててと考えていたのだが、箱からケーキを出そうとしたところで、俊洋のテンションが爆上がりしたのだ。
「ンママママァ〜っ‼」
「これじゃ食事しなくなるんじゃないか……?」
「そうかも……」
仕方なく一度ケーキは冷蔵庫にしまい、ある程度ご飯を食べてからにする事にしたのだ。
ケーキを見た俊洋はまたまたテンションが上がり、ベビーチェアをガタガタと揺らした。
「俊洋。これは悠助お兄ちゃんの誕生ケーキだから、少し大人しくするんだぞ?」
「ンマンマァ〜」
「悠助がフーってしてからな?」
俊洋から距離を取ってケーキにローソクを立てる。火を点けてハッピーバースデーを歌い、雄太と悠助が揃ってローソクを吹き消す。
「おめでとう、悠助。おめでとう、雄太くん」
「パパ、ユースケ。オメデトウ」
「悠助、雄太。おめでとう」
皆に拍手されて、悠助は照れた顔をしている。
「アリアト」
「ありがとう。さて、ケーキ切ってやるからな?」
雄太は、滝ヨダレを流しながら目をキラキラさせている俊洋を見て忍び笑いをしながらケーキを切った。
カットしたケーキの真ん中にホワイトチョコのプレートを乗せて、悠助の目の前に置いてやる。
「パーパ、アリアト」
「ああ」
俊洋の分は手の届かない位置に置き、凱央と理保の前にも置く。
「ンマンマァ〜」
「激しいわね、俊洋」
理保は口元に手をあてて笑っている。
「ンマンマァ〜」
「分かったってばぁ〜」
春香も笑い過ぎて、フォークを持つ手がプルプルと震えていた。少し掬ってやると、俊洋は大きく大きく口を開いている。
「悠助、美味しいか?」
「ウン。ケーキオイチィ」
「良かったな」
悠助は口の周りにクリームをつけながらケーキを頬張り、凱央もニコニコと笑いながらケーキを食べている。
理保は孫の成長に目を潤ませながら、時折慎一郎に見せてやりたいと写真を撮っていた。
「パーパ。ジューチュオタワリ」
「ああ」
「パパ、ボクモ〜」
雄太が悠助と凱央のコップにリンゴジュースを注いでやる。
ふわっとリンゴの良い香りがして、ケーキを食べていた俊洋がジッと見ている。その視線に悠助が気づいた。
「トチヒロ、ノム?」
「ン」
雄太と春香が止めようとしたが、悠助から受け取ったコップを思いっきり煽った。
ダバァ〜
「ああ……」
「俊洋ぉ……」
普段ベビーマグで飲んでいるつもりでグイッと傾けた所為で、ジュースはコップの端から流れ出し、俊洋はジュースを浴びてしまった。
「ウ?」
口にジュースが殆ど入らず、俊洋はキョトンとしていた。春香は大慌てで布巾で俊洋の服を拭く。雄太はタオルを取りに走り、床やベビーチェアを拭いた。
「プッ……。フフフ……」
ちょうど写真を撮っていた理保はツボってしまったようで、涙を浮かべながら忍び笑いをしている。
「フフフ。は……春香さん。俊洋、下着までしみてるかも知れないからお風呂に入れたら?」
「そ……そうですね。雄太くん、お風呂の準備するから俊洋をお願い」
「ああ」
春香は手を洗ってから風呂場に向かった。その背中を見送りながら、理保はキッチンでタオルを絞って雄太に手渡す。
「ありがとう、母さん。俊洋……、お前って奴は……」
「凱央と悠助と比べると、俊洋ってヤンチャなのね」
「そうだと思う」
雄太は拭き終わったタオルを理保に手渡す。理保は再びキッチンへ向い、タオルを洗って笑いながらリビングへ戻る。
「三人兄弟だと三人目はヤンチャになるって聞いた事があるわ。お兄ちゃん達に対抗心を持って成長が早いとも言うしね」
「分かるけどぉ……。凱央と悠助がおっとりしてるから差が激しいんだよ」
リビングに戻った理保はもう一度テーブルを拭いてやり、雄太は俊洋の靴下や服やズボンを脱がせていった。
「頼むから、お兄ちゃんを見習って良い子にしてくれよな?」
「ン」
リンゴジュースの良い香りをさせながら、パヤパヤと笑っている俊洋に、呆れながらも、笑顔に癒されていた。




