809話
3月20日(月曜日)
雄太宅では健人の中学卒業祝いと競馬学校の入学祝いをしようと皆が集まっていた。
健人のリクエストで地下のコレクションルームでの宴会になった。
「うわぁ……。やっぱスゲェ……」
健人は並んだトロフィーや盾を目を輝かせて見ている。初めて見せてもらった時より増えた憧れの雄太の実績に頬が紅潮している。
(健人くん、嬉しそう)
キラキラと目を輝かせている健人を見ると、春香は姉のような気持ちになる。
トレーニング機器を使いに来たり、遠征で雄太がいない時に凱央達と遊んでやったりしていた健人は、気がつけば純也達以上に雄太の家にいる時間が長くなっていた。
「健人。ほらここに座れよ」
「うん。雄太兄ちゃん」
長テーブルの真ん中に座った健人や子供達にはオレンジジュース。雄太達はシャンパンをグラスに注ぐ。
「じゃあ、卒業おめでとう、健人。競馬学校で頑張れよ」
「健人くん、おめでとう」
「おめでとう」
雄太と春香、そして純也達にもお祝いの言葉をかけてもらい、健人は照れくさそうにする。
「ありがとう。俺、嬉しくて嬉しくて……」
父親の小園は雄太達の先輩になるが、健人にしてみれば雄太だけでなく鈴掛や梅野も先輩になるのだ。
多少関わりがあったものの、こんな風に祝ってもらえるのはドキドキする。
「何だ? 緊張してんのか?」
「え? 緊張って言うか、興奮って言う感じかも……」
「あのちっこかった健人がなぁ〜」
まだあどけなさが残る少年といった年齢の健人ではあるが、同年代の子供達と比べて大人びて見える。
それは騎手と言う勝負の世界であり、大人の世界に進もうとしているからだろう。
「鈴掛さん、おっさん臭いっす」
「お前はっ‼ もうっ‼ 全くっ‼ 可愛くねぇよな」
ゴスッ
余計な一言を口にした純也の頭に鈴掛のゲンコツが落とされる。頭を押さえて床に転がる純也と満面の笑みの鈴掛の姿に俊洋はキャッキャと笑う。
「俊洋ぉ〜」
「自業自得だろ……」
涙目で俊洋に縋る純也を見て、雄太は呆れたように言う。
「健人は首席での卒業が第一目標なんだってぇ〜?」
「あ、はい。もちろんです。俺は雄太兄ちゃんみたいになるって決めてるんで」
「そっかぁ〜」
梅野は笑って言う健人の頭をグリグリと撫でた。
「雄太が目標かぁ〜。俺にしとけよ」
「え゙。純也はヤダよ」
「んだとぉ〜。おめぇ、相変わらず生意気だな」
キャンキャンとやり合う健人と純也に、鈴掛は忍び笑いをする。
「純也と健人の年の差を感じないのはなぜなんだろうな?」
「鈴掛さんっ‼ こんなガキと俺を一緒にしないでくださいっすっ‼」
「ほぼ一緒だろ?」
「何歳離れてると思ってんすかっ⁉」
雄太も梅野も我慢出来ずゲラゲラと笑い転げる。
健人は純也と同等に扱われ渋い顔をしていた。健人のその表情に気づいた純也は真剣な顔をする。
「健人。雄太と俺は同級生だぞ? 分かってんのか?」
「そだっけ? 雄太兄ちゃんは雄太兄ちゃんで、純也は純也だろ?」
「だぁ〜っ‼ 何で雄太には兄ちゃんで、俺は呼び捨てなんだよっ⁉」
俊洋と悠助に食事をさせていた春香が、ふと思い出した。
「健人くん」
「え? 何? 春香」
「デビューしたら、塩崎さんの事は何て呼ぶの?」
「……純也……は駄目か……」
苦虫を噛み潰したような顔をした健人は、純也をマジマジと見る。
「そうだぞぉ〜? デビューしたら純也も『先輩』なんだからなぁ〜?」
ニヤニヤと笑う梅野に、健人は絶句する。
「純也……さん……? え゙〜。純也に『さん』は……」
「なんだよっ⁉」
「純也……くんってのは駄目だろうし……」
「おい、無視すんな」
純也に言われて、健人の眉間の皺が深くなっていく。
「純也……先輩で良いかなぁ……?」
「妥当なトコだな。で、春香の事は何て呼ぶんだ?」
「春香を何て呼ぶかは決めてるんだ」
健人は春香のほうを笑いながら見た。
「春香は……春香姉ちゃんって呼ぶ。良いか?」
「うん。健人くんのデビューが楽しみだよ」
春香は嬉しそうに笑った。




