804話
1月30日(月曜日)
25日に一歳になった俊洋の誕生パーティーをする予定だったのだが、まだまだいつものように賑やかにする気にはなれなかった。
だからと言って、初めての誕生日のお祝いをしないという選択は出来なかった。
「賑やかっていうか、派手にするのは……、何となく、な。まだ行方不明の人とか、倒壊した建物の中に取り残されてる人がいるかも知れないって報道されてたから」
「うん。じゃあ、家族だけでお祝いしようね。ケーキの予約は済んでるし」
「ああ」
二人で話し合って、雄太は当日にケーキを受け取りに行き、春香はせっせとキッチンで準備をしていた。
「俊洋、誕生日おめでとう。もう一歳になったなんて早いもんだ」
「お誕生日おめでとう、俊洋。そのベスト似合ってるわ。里美さん、本当手編み上手なのね」
雄太宅のリビングでは、慎一郎と理保が俊洋をかまっていた。
家族だけの誕生パーティーに決めた雄太は慎一郎達に声をかけていたのだ。
『差し入れしてもらった白菜もあるし、寄せ鍋にしようと思ってるんだ。父さんの好きな日本酒もあるし、来てやってよ』
雄太に言われて、慎一郎も理保もウキウキしながら来てくれていた。
「お義父さん、冷やにしますか? 燗にしますか?」
「そうだな。冷やでいただこうか」
「はい」
慎一郎はホクホク顔で春香に答えていた。
長テーブルの上にある電気鍋から良い出汁の香りが漂ってくる。
「良い香りだな」
「捌いた鯛の中骨とかを炙ってから出汁を取ったんだよ」
「春香さんが捌いたんじゃないのか? 雄太は捌けんだろう?」
慎一郎はチラリと春香を見る。
「俺が捌いたんだよっ‼ ……春香に教えてもらって……」
「さぞかし身が残っていていたんだろうな」
次第に小声になる雄太に、慎一郎はニヤリと笑った。
「慣れてないんだから仕方ないだろ?」
苦笑いを浮かべながら、雄太は野菜や魚の切り身などを鍋に入れていった。香ばしくも柔らかで優しい香りがリビングに広がっていく。
凱央と悠助は、自分の椅子を運んだり、器や箸、フォークを運んでお手伝いしている。
「凱央、悠助。運び終わったら座って待ってろな」
「ハ〜イ」
「アイ、パーパー」
凱央と悠助が椅子に座り、慎一郎が俊洋を椅子に座らせようとした時だった。
「ジ……」
「お?」
「バ……」
「あら?」
俊洋は慎一郎と理保を見ながら言った。孫に呼ばれて喜ばない訳がない。凱央や悠助の時と同じように、目を潤ませて笑っている。
雄太がその様子をみながらクツクツと煮えた鍋の蓋を取るとフワリと湯気が立ち、凱央と悠助が顔を輝かせる。
「ボクネ、サケトハクサイ〜」
「オタナカクラシャイ。オトウフモ〜」
「分かった、分かった。冷ましてやるから待ってろよ?」
「ハ〜イ」
「アイ」
器に取り分けてやり冷ましてやる。春香も俊洋用に取り分け、箸で小さくしてやり冷ましていた。
理保は飲み物を注いでくれている。
「母さん、ありがとう。じゃあ、俊洋、お誕生日おめでとう」
「カンパ〜イ」
「タンパ〜イ」
「ンタタ〜」
いつの間にか乾杯を覚えた凱央と悠助の真似をして、俊洋がベビーマグを高く上げた。
その様子を見て、慎一郎達は嬉しそうに笑っている。
「はい。俊洋、あ〜ん」
俊洋はベビーチェアの隣に座った理保に食べさせてもらってご機嫌だ。
「ンマンマ」
「そう? 良かったわねぇ〜」
「母さんも食べてよ? 俊洋は俺がみるから」
雄太は理保に声をかけて、俊洋の隣に行こうとした。
「ヤ」
「え゙……?」
「ヤ」
俊洋がイヤイヤと首を横に振りながら拒否をする。
「ハッハッハ。雄太、フラれたな」
「うぅ……。何でだよぉ〜」
「俊洋はバァバが好きなんだよ。なぁ、俊洋」
春香に美味い日本酒を酌をしてもらった慎一郎が赤い顔をして笑うと、俊洋もパヤッと笑う。
春香も俯いてクスクスと笑っていた。
「はぁ〜るぅ〜かぁ〜」
「ご……ごめんね。我慢出来なくて……」
薄っすらと浮かんだ涙を拭いながらも笑いが止められないようだった。




