803話
自宅に戻った雄太は、子供達一人を抱き締めてやった。
余震は立ち止まっていないと分からないぐらいのものがあった程度だったが、やっぱり子供達は少し元気がないような気がした。
(そりゃ、あんなに揺れたんだもんな。怖いって気持ちはしばらく続くかもな)
春香と理保が傍にいたが、やはり雄太が帰ってきてくれたのは嬉しいようだ。
「母さん。父さんは少し遅くなるって。阪神の様子が少し分かったから、上層部と話があるからって言ってた」
「そう、分かったわ。じゃあ、雄太も帰ってきたし、私は家に戻るわね」
「ありがとう、母さん」
理保が一人で家にいるのも心配だったし、春香と一緒にいてくれて良かったとつくづく思った。
「お義母さん、本当にありがとうございました」
「良いのよ。私も子供達が心配だったし」
「はい」
春香の頭を撫でて、子供達を抱き締めて、理保は自宅に戻っていった。
家族揃って風呂に入り、雄太はようやく体と心の疲れが解れた気になった。
(いつも以上に気疲れしたなぁ……。阪神の様子も気になるけど、俺がどうする事も出来ないもんな……)
凱央達は、いつものように遊んでやると少しずつ笑顔が戻った気がした。
大きな余震があった時、火を使っていると危ないかと思い春香は炊飯器でコーンクリームシチューを煮込んでいた。
「ママ、シチューオイシイ」
「シチューオイチィ」
「ンマンマ」
「そう? たくさん食べてね」
雄太は春香から子供達が食欲がなかったと訊いていたから、美味しそうにシチューを食べる子供達の姿にホッとした。
温かいシチューを食べ、ホッとしたのと体が温まった事と、いつもより早く起きてしまったからか、凱央と悠助はフワフワと欠伸をして春香の部屋に行き眠った。
その後、俊洋も眠くなり雄太の腕の中でスースーと寝息を立てている。雄太は春香の部屋のベビーベッドに俊洋を寝かせてリビングに戻った。
「雄太くん、何か飲む?」
「ん? ああ、ホットミルク頼めるか?」
「うん」
雄太はリビングに行きテレビをつけ、子供達が起きないようにボリュームを下げる。どのチャンネルも、まだ地震の事を流していた。
押し潰されたようなビルや家屋や横倒しになっている高速道路が映る。
そして、潰れた家屋の傍で呆然と立ち尽くす人々の映像が胸を締め付けた。
(こんな事って……)
コトンとカップを置く音に顔を向けると、春香は少し悲しそうな顔をしていた。
「……こんな事があるんだね。自然の前では人間って無力だね」
「そうだな……」
春香は雄太の隣に並んで座った。雄太と春香はホットミルクを一口飲んだ。
「今日は……凱央達が怖がるからテレビをずっと見てなかったの……。私も怖いって思っちゃって……」
「そりゃそうだろうな……。俺も、最初見た時は体が震えたんだ……。背筋が寒くなって、足元がグラグラする気がした……」
雄太も春香も戦争は教科書などの写真やテレビでの映像でしか知らない。
それと遜色のない映像が『今』テレビから流れているのだ。
「大人の私達でさえ怖いって思うのを見せて良いのか分からなくて、雄太くんのレース映像とか特番を流してたんだよね」
「そうだったんだな」
「それで楽しそうにしてたんだけど、余震がきたらお義母さんや私に縋り付いてたよ」
雄太はトレセン内を歩き回っていたから気がついていない余震もあっただろう。テレビからの速報で気づいた事が大多数だった。
「あ、そう言えばお義父さんの話って何だったの?」
「ああ。阪神競馬場の様子が分かったんだ」
春香はゴクリと息を飲んだ。
「パドックの屋根が傾いてて……。芝やダートの馬場に、いくつもヒビ割れがあって使えないって……」
「それじゃ……」
「阪神競馬場はしばらく使えないって判断されたんだ。今週はどうしようもないから、来週からは多分京都開催になると思う」
雄太は苦しそうな顔で現状報告をした。マグカップを持つ手に力が入る。
「そう……」
雄太の初レースを見た思い出の競馬場にも被害が出ていた事に、春香も胸が痛くなり、そっと雄太に寄り添った。




