801話
1月14日、15日、16日と三日間開催があり、雄太は精一杯騎乗をし二つ勝ち鞍を上げた。
翌朝、調教に行く前にリビングでストレッチをしていた時だった。
どこからともなくゴゴゴと音がし、グラリと大きな揺れが襲った。
「え? キャアっ‼」
「春香っ‼」
雄太はキッチンに立っていた春香に駆け寄った。コンロを使っていないのを確認して、抱き寄せテーブルの下に体を入れる。
「揺れ……大きいし……長くない……?」
「ああ……。こんな地震……初めてだ……」
ドンッと足元から突き上げるような衝撃の後、不気味にユラユラと揺れが続いている。
地盤はしっかりしている土地であるはずなのにと思っていると、春香の部屋から悠助のか細い声がした。
「マーマァ……、マーマァ……」
「あ、悠助」
雄太と春香はテーブルの下から這い出した。俊洋が起きた時に声が聞こえるようにと半分開けてあったドアを開けて、悠助が泣きべそをかきながらリビングへと入ってきた。
春香は、その小さな体を抱き締める。
「大丈夫よ、悠助。怖かったね」
「よしよし。もう大丈夫だ」
その時、リビングのドアが開き凱央がリビングに入ってきた。目にいっぱい涙を浮かべ、雄太と春香に駆け寄った。
「パパ、ママ……。グラグラシタノ」
「凱央、大丈夫? 怪我したりしてない?」
「ウン。デモ、コワカッタ」
一階より二階のほうが揺れただろう。
一人で揺れが収まるまで耐えていたのだろうと思い、雄太はしっかりと抱き締めてやった。雄太の体を凱央がしっかりと掴む。
「大丈夫だ。大丈夫だからな?」
「ウン」
雄太や春香が驚く程の揺れだったのだから、子供達はどれ程怖かったかと思う。
雄太は凱央と悠助の頭を撫でてやり、リビングのソファーに座らせた。
「痛かったりするところはないか?」
「ウン。ダイジョウブ」
「ライジョウブ」
「そうか。良かった……」
春香は子供達の返答にホッとして、俊洋の様子を見に部屋に入った。俊洋は揺れにも起きずに、まだスヤスヤと眠っていた。
「雄太くん。俊洋は大丈夫みたい」
「ああ」
春香はリビングに戻り、リビングボードに置いていた写真立てなどを直した。
(震源地はどこなんだ……? こんなに揺れたんだし、県内か……?)
その時、ウッドデッキ側のリビングの窓をコンコンとノックする音が聞こえた。雄太が近寄り鍵を開けると、心配そうな顔をした慎一郎と理保が入ってきた。
「父さん、母さん」
「お義父さん、お義母さん」
「雄太、春香さん。子供達は大丈夫か?」
「大丈夫だよ。父さんも母さんも怪我ないか?」
「大丈夫よ。ビックリしたわね」
春香は、慎一郎達の顔を見てホッと息を吐いた。
慎一郎と理保は、ソファーに座り不安そうな顔をした孫達の手を握ったり頭を撫でてやったりする。
ふと春香は時計を見た。
「お義父さん、もう厩舎のほうにいらしたんじゃ……」
「ん? ああ、一通り馬の様子を見てから戻ってきたんだ」
雄太達や孫達も心配だったが、一人で家にいる理保もだったのだろう。慎一郎は口にはしないが、一番に自宅へ行った事から分かった。
「馬達は大丈夫だったのか?」
「ビクついとったな。怪我とかはないようだったが」
馬は繊細な生き物だ。台風などの激しい風音ですら嫌がる馬もいる。
「じゃあ、早く厩舎に戻ってやってください。厩務員さん達も、家族が心配な方もいらっしゃるでしょうし」
「春香さん……」
「私達は大丈夫です。お義父さんが戻られるまで、お義母さんも一緒にいてください」
春香がキッパリと言うと、理保は深く頷いた。
「あなた。春香さんの言う通りですよ。馬は怖いと言えないんですから」
「理保……」
春香と理保の力強い言葉に雄太が頷き、慎一郎の肩を叩いた。
「父さん、行こう。あれだけ揺れたんなら、また強い余震があるかも知れない。その時に馬が怯えて暴れたりして怪我をしたら大変だ」
「……分かった」
「じゃあ、春香。子供達と母さんを頼む」
春香はニッコリ笑って頷いた。
雄太と慎一郎は深く頷いて、トレセンへと向かった。




