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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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779話

 

 1月6日(金曜日)


 1月5日に初レースが京都での騎乗があり、一日休みをはさんで7日と8日も京都で騎乗予定がある雄太は京都競馬場の調整ルームにいた。


「なぁなぁ、雄太」

「何?」

「一日休みあったのに、何で家に帰らなかったんだ?」


 寝転んで競馬情報誌を読んでいる雄太に、ポテトチップスの大袋を抱えた純也が訊いた。


 いつもの雄太なら、5日のレースが終わったらウキウキと自宅へ戻って、また翌日調整ルーム入りしていたのに、ずっと調整ルームにいるから不思議に思ったのだ。


「ああ〜。俊洋が四日から風邪っぽいんだよ。で、春香が俺に感染うつったら困るから調整ルームにいて欲しいって言われたんだ」

「そうなんだ? 俊洋、大丈夫なのか?」

「ちゃんと医者に診てもらったから大丈夫だって」


 一時的にではあるが、雄太を見ては泣いていたのが嘘のように、ヨチヨチと雄太に近づいてはベッタリするようになったから、雄太に風邪が感染うつってしまう可能性が高いのだ。


「治りかけが一番感染(うつ)りやすいんたっけ? 用心するには越した事ないもんな」

「俺としては家にいるのが一番なんだけどな」


 雄太は苦笑いを浮かべた。春香と子供達と一緒にいるのが何より癒やされるのだ。


「そんなの雄太見てりゃイヤって程伝わってくるぜ。てか、春さんもだけどチビーズも風邪引いたとかあんまなくね?」

「多分、体質じゃないかな? 俺も春香も風邪引いたりっての少ないし」


 雄太は子供の頃から殆ど風邪を引く事はなかった。理保が慎一郎の体調を気遣っていたからだろう。


 だから雄太の体調を調えるのも当たり前になっていたのだと思う。


「雄太が前に風邪引いたのっていつだっけ?」

「ん〜。二年……、否、三年前か。薬飲んで寝たら二日で治った記憶があるな。てか、ソルだって風邪引いてないだろ?」

「俺? たまに引くけどな。風邪かなぁ〜って思わったらトレセン周りを走ったら治るんだよ」


 雄太は目を真ん丸にして固まる。


「え? 走ったら治んねぇ?」

「……風邪引いて走ろうなんて思わないだろ……」

「そっかぁ? 走って体温上げて、汗をかいて風呂入ったら治るってのが普通だと思うんだけどな」


 そう言って、純也はポテトチップスの袋を口にあてて、欠片を残さずに口内に入れている。


 ポフポフと軽い音がする。


「間違ってるかどうかは置いといて、ソルが風邪を引くのっての、冬でもパンイチで床に転がっていたりするからだよな……?」

「俺、睡眠欲と食欲には逆らえねぇの」


 ニヤッと笑って、純也はポテトチップスの袋を丁寧にたたむ。小さくたたみ終わるとゴミ箱に投げ入れた。


「風呂入るとさ、体が温まるだろ? すっとさ、眠くなるだろ? でも、熱いと眠れねぇから、パンイチで床に転がってると気持ち良くて、そのまま寝ちまうんだよな」

「分からなくもないけど、それしてるから風邪引くんだろうが……」


 呆れた雄太が言うと、純也がゲラゲラと笑う。


「たまにさ、梅野さんとかが部屋にきてビビられる時あんだよな」

「そりゃビビるだろ。真冬にパンイチで床に転がってりゃ、何事かと思うのが普通だって」


 部屋には鍵があるのに、いつも明けっ放しでオヤツを盗み食いされたとか、エロ本を誰かが持って行ってないとか愚痴っている。


 純也が鍵をするのは、春香の手作りクッキーや差し入れの料理を持ち帰った時だけだともっぱらの噂だ。


「そう言えばこの前さ、先輩達にドッキリされたんだよな」

「へ? ドッキリ?」

「そう。俺が中京に行ってた時、寮に帰ったら部屋の中が空っぽになってたんだよ」


 純也が部屋のドアを開けた瞬間、テレビや布団、オヤツを入れていた段ボールや服が入ったチェストがなくなっていたのだ。


 一瞬、部屋を間違えたのかとドアを閉め部屋番号を確認して自分の部屋だと思ったが、部屋の中は空っぽだ。


 『俺の……俺の……俺のオヤツぅ〜〜〜〜〜っ‼』


 寮に響いた絶叫に、隣の部屋に隠れていた先輩達は腹を抱えて笑っていたと言う。


 結局、ついでに大掃除をしたとむくれる純也に、雄太は腹を抱えて笑い転げていた。






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