778話
翌二日、初出勤を終えた雄太達と慎一郎達は一緒に初詣に出かけた。二日ではあるが、それなりに人が多い。
昨日挨拶を交わした人もいるが、競馬関係者ではない近所の人達が、慎一郎達と雄太達を見て驚いた顔をしたり、振り返ったりしていた。
「ユースケ。テハナシチャダメダヨ。マイゴニナルカラネ」
「アイ。ニィニ」
凱央と悠助は仲良く手を繋ぎ、その後ろを雄太と春香が歩く。
俊洋は慎一郎に抱かれ、キョロキョロとあちこち指差しては喃語で話している。
「ンバダダウ、アキュ、ンナナァ〜」
「お、そうかそうか」
「良かったわね、俊洋」
慎一郎の隣を歩いている理保の淡いクリーム色の着物は迎春らしい紅梅の柄だ。慎一郎のネクタイも紅色でさり気ないペアルックになっている。
「父さんと母さんにペアルックなんて……。春香、やったな?」
「ふふふ。お義母さんは気づいてらっしゃるけど、お義父さんは良い色だとしか思ってらっしゃらないんじゃない?」
「だろうな」
紅色のネクタイは雄太と春香が慎一郎の誕生日にプレゼントしたものだ。
派手ではないかと腰が引けていた慎一郎だが、春香に似合っていると言われて気をよくして使っている。
「お義母さんがあの着物を出してらっしゃったから、お義父さんにあのネクタイをお奨めしたの。新年らしい色だし、お義父さんにお似合いですよって」
(春香って……策士だよな……)
可愛い顔をして、言葉巧みに慎一郎を御しているなと思って雄太は忍び笑いをしていた。
凱央と悠助が立ち止まり、大きな絵馬や馬の銅像を眺めている。
「ニィニ、ンマタンオッチイ」
「オッキイネ、ユースケ」
慎一郎も立ち止まり、俊洋に見せてやる。興味津々で眺める俊洋は口を開けて滝ヨダレを流している。
「余程楽しいんだな」
「うん」
雄太は春香が手にしていたハンドタオルで俊洋のヨダレを拭ってやる。
「ン……パ」
「へ?」
「ン……パ、ン……パ……」
凱央と悠助が雄太を見上げた。
「パパ。トシヒロガ、パパッテイッテルヨ」
「パーパーイッチェル」
「俊洋がパパって……?」
雄太が目を丸くして俊洋を見詰める。俊洋は嬉しそうにパヤッと笑う。
「ン……パ」
「そうか。パパって言ってくれてるのか。ありがとうな、俊洋」
俊洋を抱いていた慎一郎も理保も嬉しそうに笑う。だが、少し慎一郎は悔しそうにした。
「ん〜。悠助みたいに儂が一番だと思ってたんだがな」
「父さん……。たびたび父さんが一番なんて、俺の立場がないじゃないか」
「儂が一番でも良いだろうが。ジィジが一番で何が悪い」
そんなやり取りを見て、春香と理保は顔を見合わせてフフフと笑っている。
「雄太兄ちゃんっ‼」
「ん? お、健人」
人混みの中から健人が駆けてきた。
「あ、明けましておめでとうございます」
「おお、おめでとう」
「おめでとう、健人くん」
健人は慎一郎と理保にしっかりと頭を下げて新年の挨拶をする。そして、雄太と春香のほうを向いた。
「雄太兄ちゃん、春香。御守り、ありがとう」
健人は競馬学校の騎手課程に合格をしていた。その一次試験の前に、雄太と春香は御守りを手渡していたのだ。
そして、一次試験を合格し、二次試験も合格した。
「春から競馬学校だな。頑張るんだぞ?」
「うん。俺、絶対スゲェー騎手になる。雄太兄ちゃんにも負けない騎手になる。約束するから」
健人はニッと笑って言う。雄太に憧れ、雄太のようになりたいと頑張ってきた健人が、騎手に向けて一歩を踏み出した。
雄太がいない時には、凱央達と遊んでくれていたのを慎一郎達も見てきた。
「頑張って良い騎手になれよ? 儂のところの馬に乗せてやりたいと思えるぐらいのな」
「はいっ‼」
慎一郎は無骨な手で健人の頭を撫でてやる。嬉しそうに笑う健人と雄太がダブって見えた。
(儂は……あの頃、雄太の合格をこんな風に祝ってやっただろうか……。雄太なら大丈夫だと思っていて、褒めてやらなかった……)
雄太が自分の至らない部分を反省しているように、頑なな昭和の親父の慎一郎も変わっていくのだった。




