777話
例年よりは少ないが、それでも次から次と来客があった。
客が途切れた時、ずっと抱っこをしているのが大変だろうと、雄太がベビーウォーカーを自宅から持ってきてくれた。
「トシヒロ、オウマサンダヨ〜」
「ウダダァ〜」
凱央と悠助は、俊洋が退屈しないように遊んでやっている。
「お義母さん。次は私が行きますから、少し休んでください」
「あら、そう? じゃあ、お願いするわね」
春香がお茶を淹れ、盆を手にすると、凱央が春香に声をかける。
「ママ。ボクモ、オテツダイスル」
「そう? じゃあ」
春香は茶菓子の皿をもう一つの盆に移すと凱央は盆を手に歩き出した。春香と凱央がキッチンを出ると、悠助が理保のエプロンをツンツンと引っ張った。
「バァ〜。オテチュライシユ」
「え? 悠助もお手伝いしたいの?」
「ン。ニィニト、イッショシユ」
理保は、お兄ちゃんの真似をしたい年頃なのだと思って笑った。
「じゃあ、次は悠助にお願いしようかしら?」
「アイ」
応接間から戻った春香に悠助の意思を伝えると、春香は膝をついて悠助と視線を合わせる。
「悠助もお兄ちゃんだもんね。お手伝いしてね」
「アイ。バァーチョイクノ」
「そう。じゃあ、頑張ってね」
しばらくして次の来客があり、悠助は緊張した顔をした。春香がお茶を淹れると理保は茶菓子の盆を悠助に持たせた。
(す……凄いドキドキするんだけどぉ……)
「凱央。俊洋を見ててね?」
「ウン」
盆を持った悠助よりも緊張しながら、春香は理保と悠助の後をそっとつけた。
理保が盆を片手に応接間の扉を開ける。
応接間にいた全員の視線が扉のほうへ向き、全員が驚いていた。
悠助が両手で盆をしっかり持って、ソロリソロリと歩いている。
「ゆ……悠助?」
「え? 悠助……?」
雄太と慎一郎の呟きにも反応せず、悠助は緊張した面持ちで盆をテーブルに置いた。
「アテマチテオメエトゴライマシュ」
悠助はそっと調教師の前に茶菓子を置いて挨拶をした。
「旧年中はお世話になりました。本年もよろしくお願い致します」
理保が茶托にのった湯飲みを置いて頭を下げて、悠助の手を引いて応接間から出る。
扉の外では不安そうな顔をした春香がそっと覗き見をしていた。
「あ……」
「ふふふ。とりあえずキッチンに戻りましょうね」
「はい」
緊張はしていたものの、上手くいった事で鼻息荒くドヤ顔をした悠助を先頭に、春香と理保はキッチンへ向かった。
「慎一郎調教師、今のは二人目のお孫さんでしたな? 確か……悠助くん」
「ええ。三人目が生まれてからしっかりしましてな」
「子供もですが、孫の成長は嬉しいですな。それを三人だと更に嬉しいものだ。雄太くんは親孝行者だし、良い奥さんもいて幸せ者だな」
「ありがとうございます」
孫を褒められ、息子と春香まで褒められ慎一郎は上機嫌だ。
(父さん、喜び過ぎだろ)
そうは思うが、雄太もお兄ちゃんっぷりを発揮した悠助の姿と春香を褒められて目尻は下がりっぱなしになった。
「悠助。とっても良く出来たわね。バァバ、嬉しいわ」
「アイ、バァ〜」
ギュッと抱き締められ、悠助は嬉しそうに笑う。
「ママもビックリしたわ。悠助格好良かったよ。パパそっくり」
「エヘヘ」
雄太に似た笑顔を浮かべて笑っている悠助の頭を撫でてやる。
成功し、褒められると自信になると思っている春香は目一杯褒めた。
そして、俊洋の面倒を一人でみてくれていた凱央を抱き締める。
「凱央、ありがとう。ちゃんと俊洋をみていてくれて、ママ嬉しいよ」
「ウン。トシヒロ、イイコシテタヨ」
「そうね。俊洋も良い子ね」
「アニャ……、ウァンブ……」
その後も、凱央と悠助は交互に接客をして、慎一郎を喜ばせた。
「凱央、悠助。ありがとうな。ジィジ、嬉しいぞ」
「ウン。マタ、オテツダイスルヨ」
「オテツアイシユ〜」
慎一郎は凱央と悠助を思いっきり抱き締めてホクホク顔をしていた。
(良い正月たったな)
大して疲れず家族と笑顔で正月が過ごせ嬉しかった雄太だった。




