774話
12月31日
家族揃って迎えた大晦日。
初めて年越し蕎麦を見た俊洋は、テーブルに置かれた瞬間からテンションが上がっていた。
「俊洋は蕎麦好きなのかな?」
「蕎麦はアレルギーあるかもって思って食べさせた事はなかったんだよね。でも、おうどんとか麺類好きみたいよ」
雄太は絶対に俊洋の手が届かない位置に置いた丼から、器に取り分けて冷ましてやる。
「ちょっと待てよ? もう少し冷ましてやるからな?」
「ンマンマァ〜」
俊洋は、ハイチェアのテーブルを小さな手でペチペチしていた。
喉を詰まらせないように、凱央と悠助の分は短くしてあり、汁は少し冷ましてある。
「ママ、オソバオイシイ〜」
「オイチイ」
「ゆっくり食べるのよ?」
箸を上手く使えるようになった凱央と、まだ麺類はフォークの悠助は美味しそうに食べていた。
「雄太くん。冷めない内に食べてね? 俊洋は私がみてるから」
「ん? じゃあ、先に……え?」
「あ、俊洋」
気がつけば、俊洋はプラスチックフォークをポイと投げ捨て、手掴みで蕎麦をがっついていた。
「……余程気に入ったみたいだな」
「そうみたい……」
雄太と春香は顔を見合わせて笑ってしまった。
俊洋の食べ方の勢いが凄いので、春香はもう一つの器に蕎麦を入れてやり、雄太は笑いを堪えながら蕎麦をすすった。
「あ〜。美味いな。鴨も美味い」
「うん」
春香は俊洋の器の中をチラチラ覗きながら、蕎麦をすすっている。
「ママ、カモッテナニ?」
「えっと……鶏さんのお友達……かな?」
「オイシイ?」
「……食べてみる?」
「ウン。タベテミタイ」
興味津々の凱央に一切れ箸でつまみフーフーと冷まして、大きく口を開けている凱央に食べさせてやった。
モグモグ……モグモグ……
「オイシイ」
「良かったな、凱央」
「ウン」
しっかり噛んで食べた凱央は嬉しそうに笑った。それを見ていた悠助は、雄太の顔をジッと見詰めた。
「ん? 悠助、どうした?」
「パーパー、カモタベチャイ」
「悠助もか? ちょっと待ってな」
悠助がちゃんと噛み切れるかなと心配になった雄太は、鴨肉を小さくしてやり、凱央と同じように口を大きく開けている悠助の口に入れてやる。
「しっかりよく噛むんだぞ?」
モグモグ……モグモグ……モグモグ……
「オイチィ。アリアト、パーパー」
「そうか」
凱央も悠助も、初めて食べる鴨肉に満足したよう蕎麦の続きを食べる。
「子供には鴨肉ってクセが気になる気がしたんだけど……」
「だよな? 鶏肉とは全然違うし」
雄太は、悠助には噛み切れないと思い取り除いていた皮の部分を口に運ぶ。
「ん? 凱央は皮も食べられたんだよな?」
「うん。来年は凱央と悠助も鴨を入れてやれるね。食べやすいように、隠し包丁を入れてやれば良いかもね」
「そうだけど、手間増えるだろ?」
「子供達が美味しく食べられる為なら、少しの時間なんてどうって事ないよ」
春香はニコニコと笑いながら蕎麦をすする。
凱央と悠助は満足気に蕎麦を食べ終わり両手を合わせた。
「ゴチソウサマデシタ」
「ゴチトウサマデチタ」
「お腹いっぱいになった? お汁残ってるから、お丼そこに置いてて良いよ」
「ハ〜イ。ユースケ、アソボ」
「アイ、ニィニ」
雄太が順番にハイチェアから降ろしてやると、凱央と悠助はリビングで遊びだした。
俊洋は、まだ蕎麦を手掴みでモグモグと食べていて、雄太は癒やされるなぁ〜と思いながら眺めていた。
「俊洋も凱央達と同じでアレルギーなくて良かったな」
「そうだね。好きな物がアレルギーで食べられなかったら可哀想だもん」
「あ〜。それは可哀想だな。好きなのに食べられないってのは、な」
幸いな事に、子供達は誰もアレルギーがなく、好き嫌いもない。
「前にも話したけど、大きくなって嫌いな物が出来るかも知れないしね」
「そう……だな」
少し引きつり気味に言う雄太に、春香はニッコリと笑った。
「子供達に人参嫌いになって欲しいって顔してる」
ピクッと固まった雄太に、春香は涙を流しながら笑っていた。




