772話
12月2日(金曜日)
雄太は阪神競馬場の調整ルームでミニアルバムを見てニマニマとしていた。
「雄太ぁ〜。何見てんだよ?」
「へ?」
背後から純也の声がして雄太は肩をビクリと震えて固まった。
純也は雄太の返事を待たず、雄太の手元を覗き込んだ。開かれたミニアルバムには、サンタのコスプレをした春香と子供達の写真があった。
「おお〜。春さんもチビーズも可愛いじゃねぇか」
「ちょっ‼ 見るなっ‼」
雄太はミニアルバムに覆い被さり、純也から見えないようにした。だが、しっかりと写真を見た純也はニヤリと笑った。
「春さん、可愛いよなぁ〜。相変わらず年相応には見えねぇし〜」
「そうだろぉ〜? 春香は可愛いんだ」
春香を褒められて、体を起こして雄太はニヘラと笑う。その隙をついて、純也はヒョイとミニアルバムを覗き込んだ。
「しかも、足綺麗だしな。ワンピースの時も思ったけど、アスリートみたいに引き締まった良い筋肉ついてるし、ミニスカート似合うよなぁ〜」
「みっ‼ 見るなっ‼」
雄太は広がったままのミニアルバムを閉じて服の中に入れた。
完璧にからかいモードに入った純也は、雄太の服の裾をツンツンと引っ張る。
「良いじゃねぇかよ。隠すなって〜」
「ソルが見たら減るっ‼」
「減らねぇっての。てか、何が減るんだよぉ〜」
「春香の可愛さだっ‼」
可愛さが減るという無茶苦茶なセリフを吐いた雄太を、純也がからかわないはずがない。
「てか、この衣装どうしたんだよ?」
「……お義父さんからの早いにも程があるクリスマスプレゼントだ……」
「は〜。これを着せて写真を撮って、その写真が欲しいって事か」
直樹から春香に電話があったと聞いた時は、雄太は不思議に思ったのだ。
(お義父さんはクリスマスプレゼントって言ったけど、まだまだ早いんだよなぁ……? まだ一ヶ月以上あるし……)
そんな事を思ったが、買い物のついでに受け取った時、大きな袋の割に軽いと思った。
とりあえず自宅に戻り『春香へ』と書いてある紙袋を開けてみようと二人で相談して中身を見た。
『ブッ‼ こ……これ……』
吹き出した雄太と固まった春香の目の前にあるのは、ミニスカートのサンタ衣装だ。もしかしてと思いそっと開けた子供達へのプレゼントは子供用のサンタ衣装だった。
『お父さん、ミニスカートは駄目って散々言ってたクセに』
頬を膨らませた春香はブツブツと文句を言っていたが、雄太は心の中で直樹に感謝していた。
子供達はというとサンタ衣装が気に入ったらしく喜んで着替えた。
『ママモ、オソロイキルヨネ』
凱央に言われ決心をした春香はサンタ衣装に着替え、子供達と一緒に写真を撮り、雄太はホクホク顔で調整ルームに持ち込んだ訳だ。
純也はニヤニヤと笑いながら顎に手をあてる。
「成る程。まぁ、俺は脳ミソにバッチリ記録したぜ」
「なっ⁉ 消せぇ〜っ‼」
「ほえ?」
「春香を見た記憶を消せぇ〜」
無茶苦茶な事を言う雄太とニマニマと笑っている純也のじゃれ合いを、開けっぱなしのドアから後輩達が覗き見をしている。
(鷹羽さんって、フランスのG1獲った人なのに……)
(レースの時と全く違うよなぁ……)
じゃれ合っていた雄太の足がミニアルバムに当たり、床をスルスルと滑りドアのほうに行ってしまった。
後輩達の視線がミニアルバムに注がれる。閉じていたミニアルバムが開き、たまたま開いたページがコスプレ写真のページだったのだ。
「うわぁ……。可愛い……」
「うん。可愛い」
「へ?」
「え゙……」
後輩達の声に気づいて雄太と純也はピタッと止まった。
後輩達がミニアルバムを覗き込んでいるのに気づいた雄太は、出入り口のほうにダッシュで走りミニアルバムを抱きかかえた。
「み……見た……か?」
後輩達は目を真ん丸にして、ピクピクと頬を引きつらせている雄太を見詰めた。
(こ……これ……)
(何て答えるのが……正解……?)
(ど……どう言えば……)
完全にフリーズしている雄太と後輩達を見て、純也は翌日腹筋が筋肉痛になるぐらい笑い転げていた。




