771話
メリーゴーランドの後、大きなぬいぐるみのような乗り物や列車の乗り物に乗ったりして子供達は大はしゃぎだった。
「パパ、オナカヘッタァ〜」
「パーパー、ゴアンタベチャイ」
「そうだな。パパもお腹減ったからご飯食べようか」
「ワ〜イ」
「ア〜イ」
思いっきり遊びお腹を押さえて空腹を訴える子供達を連れて、フードコートへと移動した。
途中のお土産物屋のあるブースで、雄太は足を止めた。
「なぁ、春香」
「え? なぁに?」
「あれ」
雄太は隅にある出店らしい物を指さした。簡易的な店と横に置いてあるノボリには『キーホルダー』『お名前彫ります』という文字があった。
雄太と春香は顔を見合わせて笑った。そして、店の前に立った。
「こんにちは、名前彫って欲しいんですけど」
「いらっしゃいま……え?」
出店の店主は雄太を見て目を丸くした。
「あ……あの……あの……。もしかして……鷹羽騎手……ですか?」
「あ、はい」
「うわぁ……。俺、鷹羽騎手のファンなんです。握手してもらっても……」
「はい。もちろんです」
三十代前半と思われる店主は雄太とガッチリと握手をして、目をキラキラとさせている。
雄太達が好きな形のキーホルダーを選んでいる時も、ジッと自身の手を見詰めている店主の姿は本当にファンなんだなぁ〜と春香は思って微笑んでいた。
「じゃあ、順番に彫っていきますね」
『たかばねときお、たかばねゆうすけ、たかばねとしひろ』
子供達の名前は平仮名でとお願いすると店主は笑って頷いた。
彫刻機で一つ一つ丁寧に名前を彫ってくれている。
「ボクノナマエダネ〜」
「そうだよ、ときおくん」
雄太に抱き上げてもらい一生懸命に名前を読んで笑っている。
「はい、出来たよ」
「アリガトウ。ダイジニスルネ」
凱央は雄太に降ろしてもらうと、キーホルダーを春香に渡してリュックのファスナーにつけてもらった。
悠助も同じように作業を見ていて、凱央と同じようにリュックにつけてやった。
その後、雄太達はフードコートへ行き食事をした。ラーメンや明石焼きを食べ、子供達は満足そうに笑っていた。
行きの時とは真逆で車内には子供達の小さな寝息だけが聞こえる。
大はしゃぎして腹も膨れたなら眠くなるのは当然で、駐車場を出る前から俊洋、悠助、凱央の順に大きな欠伸をしてスースーと眠り出したのだ。
一人一人に膝掛けを毛布代わりに掛けてやり、雄太と春香は顔を見合わせて笑った。
「楽しかったね」
「ああ。楽しくて楽しくて時間を忘れたよ」
「うん」
少し混雑し始めた夕方の琵琶湖大橋を渡りながら小さな声で話す。
「良い結婚記念日になったか?」
「もちろん。最高に楽しかったよ」
バックミラーで見える春香は満面の笑みを浮かべていた。
せっかくの結婚記念日なのに、遊園地とフードコートでの食事かと笑う人もいるだろう。
隣には両親がいるのだから子供達を預けて、高級なレストランで食事をしても良いだろうと言う人もいるだろう。
だが、そういう事を春香が望んでいないのだから仕方がない。
『結婚記念日、どうしょうか?』
春香の誕生日の後、訊ねた雄太に春香はニコニコと笑って雄太の手を握った。
『あのね、家族揃って遊園地に行きたい。たまには雄太くんとデートしたいたいし、子供達と一緒に遊びに行ったり出来るのは今だけだし、ね?』
二人っきりで結婚記念日を過ごすのは、子供達が大きくなってからで良いのだと笑いながら言っていた。
そして、今もその時と同じ優しい顔で眠る子供達の様子を眺めている。
(ま、祝勝会で思う存分贅沢な食事はしたしな)
春香は凱央達に食べさせたりしながらも、大好物のホタテや伊勢エビのフリッターなどを食べたと言っていた。
信号で停まった時、ティラミスはお代わりもしたと嬉しそうに話していたなと思って、バックミラーを見ると春香と目が合った。
「雄太くん、大好きだよ」
「俺も春香が大好きだぞ」
何年経っても変わらない想いを口にして、雄太達は幸せを噛み締めて自宅へと戻った。




