768話
ゆっくりと食事が出来るようにと、ホテル側が用意してくれた子供達用のテーブル付き椅子に座った凱央達の世話をしている雄太と春香の傍に鮎川が笑顔で近づいてきた。
「馬に跨ってる姿からは想像出来ないパパっぷりだな」
「え? あ……あはは」
「ふふふ。鮎川さんもそう思います? 雄太くん、本当に良いパパなんですよ?」
苦笑いを浮かべる雄太と雄太のパパっぷりを自慢する春香に、周りにいた人達もクスクスと笑い出す。
「鷹羽くんとの付き合いも長くなったな」
「そうですね」
鮎川との付き合いは春香のほうが長いが、番組収録などで雄太と会う回数が増えている。
「デビュー戦を見た時に勝てる騎手になるだろうって思ってたけど、まさか海外G1を勝つとはな」
「ははは。デビュー戦は格好良く勝つつもりだったんですけどね」
「だろうな。惚れた女の前で格好つけたかったもんな」
雄太の顔が一気に照れたような顔になる。その顔は普段よりも幼い気がした。
(まだまだ可愛い顔するんだよな。一流って言っても良いぐらいの騎手なのに)
そして、モグモグと美味しそうに食事をしている子供達を見る。
「子供達も良い子だよな。慎一郎調教師と観客席に手を振ってる姿を見た時は大物だなって思ったし」
「あはは。あれは俺もビックリしましたよ。俺よりずっと大物かも知れないって」
穏やかな笑顔で話す雄太と鮎川を直樹は小さく笑いながら見ていた。
「鮎川さんって親戚のお兄さんみたいですね」
「え? あはは」
直樹に言われて鮎川は照れ笑いを浮かべた。春香も里美もクスクスと笑っている。
「親戚のお兄さん……。それ、良いですね」
「おいおい。鷹羽くん」
春香と出会った時、鮎川は売れてないタレントだった。雄太の密着番組の後は、どんどんと人気が出て、今や競馬関係の番組とは切っても切れないタレントとして有名になっている。
「私は、ずっと鮎川さんは親戚のお兄さんみたいだって思ってましたよ?」
「嬢ちゃんまで」
春香もニコニコと笑いながら言う。
「鮎川さん、結婚式の時に泣いてましたからね」
「親戚のお兄さんじゃなくて、親戚のおじさんって感じなんじゃ」
スタッフに言われて鮎川はボリボリと頭を掻いた。
「恥ずかしい事バラすなよ、お前らぁ……。ほら、休憩済んだろ? 仕事に戻るぞ」
鮎川はほんの少し頬を赤らめて、スタッフを連れて仕事に戻った。
雄太と春香は鮎川達の背を見送り、そして会場を見回す。
「本当にたくさんの人達がきてくれたなぁ……」
「うん。今回は、後輩の子達も来てくれて嬉しいね」
「ああ。遠慮しまくられたけどな」
後輩騎手達にとって雄太は年齢以上に実績がある先輩だ。だから、今回の祝勝会に招待したら遠慮しまくりだったのだ。
「え? し……祝勝会に……ですか?」
「それって……この前のフランスのG1の……?」
場違いとまではいかないが、恐れ多いですと言わんばかりの後輩達に雄太はニッコリ笑った。
「これから経験するかも知れないだろ? 予行演習だと思ってさ。遠慮はなしで参加してくれよ?」
にこやかに誘う雄太に後輩達は嬉しそうに笑って参加を了承してくれた。そして、最初はガチガチに緊張していた後輩達だが、時間が経った今は美味そうに食事を楽しんでいた。
「皆楽しそうで良かったね」
「ああ」
雄太と春香は優しい気持ちで後輩達を見ていた。
会場に設置されている大きなモニターでは、フランスでの雄太のレースが何度も流されている。先輩も後輩も夢中でレース録画を見ていた。
(また勝ちたいよな。フランスだけじゃなく、アメリカでも勝ちたい。他の国でも勝ちたい。行かせてもらえる国のどこでもだな)
隣に立っている春香は目をキラキラさせてレース録画を見ている。雄太の視線に気づいた春香は、薄っすらと頬を赤らめて照れくさそうに笑った。
「この動画、コピーを鮎川さんにお願いしたの。家でも見られるように」
雄太は、ずっと変わらず世界で一番の雄太ファンである春香の行動力に一瞬固まった後、春香の手を思いっきり握り締めた。




