766話
雄太は自宅に戻り、ケーキを冷蔵庫に入れた。
リビングでは春香の誕生パーティーの準備は出来ており、悠助は純也と梅野とキャッキャとはしゃいでいた。
「あれ? 俊洋は?」
「鈴掛さんとブランコで遊んでるよ」
雄太は窓の外に目をやった。鈴掛が俊洋を抱き抱えてブランコで遊んでいた。
「楽しそうだなぁ〜」
「なぜか俊洋が鈴掛さんにベッタリで、遊んでもらってるの」
少しマシにはなったが、俊洋から拒否される時がある雄太は少し淋しそうだった。
「ヤキモチ?」
「う……」
いたずらっ子のように笑う春香に、雄太は少し拗ねたように苦笑いを浮かべた。
「さ……さぁ、パーティー始めようか」
「うん」
忍び笑いをしている春香の背中を押してリビングへと促した。
キラキラと飾り付けされているリビングでは、雄太とケーキを受け取りに行った凱央も顔を輝かせていた。
「パパ、オヘヤキラキラダネ〜」
「そうだな。キラキラして綺麗だな」
「凱央、悠助。ちょっとおいでぇ〜」
梅野が凱央と悠助をリビングから廊下へ連れて出た。
その間に俊洋と鈴掛が室内に戻ってきて、雄太を見た俊洋はニコッと笑うと雄太に手を伸ばした。
「と……俊洋」
「ウバァ……タダゥ……ウパァ〜」
目をウルウルとさせながら俊洋と抱いた雄太を、テーブルの上座に座らされた春香は嬉しそうに笑った。
ガチャリ
「凱央、悠助ぇ〜。ママに行っておいでぇ〜」
梅野がドアを開けると凱央と悠助が花束を持って歩いてきた。
「ママ、オタンジョウビオメデトウ〜」
「マーマー。オメェトゥ〜」
「ありがとう……。凱央、悠助」
涙を浮かべながら花束を受け取った春香に凱央と悠助は抱きついた。その姿を嬉しそうに梅野は写真に納めていた。
雄太がケーキをテーブルの真ん中に置いてロウソクを立てる。
春香は喜んでいるが、それ以上にテンションが上がっているのは俊洋だった。
「ンマァ〜ッ‼ ンマンマンマァ〜‼」
「と……俊洋落ち着いて」
俊洋はベビーチェアをガタガタと音をさせている。
ロウソクを吹き消せなくなるぐらいに春香はツボって笑い転げる。もちろん純也も梅野もだ。
「は……激しいな、俊洋」
「こんな姿、初めて見ました……」
雄太も鈴掛も啞然としてしまった。俊洋の滝ヨダレを拭きながら、雄太は春香のほうを見る。
春香も嬉し涙と笑い涙を流しながら、俊洋のヨダレを拭っていた。
ロウソクを吹き消して、ケーキを切り分けて子供達の前に置いてやると、子供達は目をキラキラさせてケーキを食べている。
そして、いつものように鈴掛と梅野からケーキを分けてもらった純也も子供達と同じように食べていた。
「美味しい。雄太くん、ありがとう」
「ああ」
美味しそうにケーキを食べる春香の姿に、雄太の目尻は下がりっぱなしだ。
アメリカに行く時もフランスへ行く時も、笑顔で背中を押してくれた春香が、無邪気にケーキを食べる姿に笑みが溢れる。
「ンマンマ〜」
「俊洋……。お前派手だな……」
「え? プッ」
「俊洋、顔面ケーキじゃねぇか」
主役の春香に代わり俊洋にケーキを食べさせていた雄太が、純也達の声に気づいて視線を移した。
そこには、ケーキに齧り付きにいって顔中に生クリームや砕けたスポンジをつけた俊洋がいた。
「うわっ‼ 俊洋っ⁉」
「と……と……俊洋っ⁉ タ……タオル、タオルっ‼ タオル絞ってくるね」
慌てて布巾で顔を拭ってやる雄太と温タオルを準備しに走る春香。
我関せずで黙々とケーキを食べている凱央と悠助。
床に転がって涙を流しながら笑う純也と梅野。
その様子を鈴掛はひっそりとカメラに納めていた。
(全く、ここは賑やかだよな)
忍び笑いをしながら何度もシャッターをきる。
焦りながら春香の差し出した温タオルで俊洋の顔や手を拭いている雄太と対照的に、俊洋はニコニコと笑顔を浮かべている。
(俺も、こんな風に笑顔が溢れる家庭を築きたいよな。今度こそ……)
春香の誕生パーティーで、幸せな家庭を思い描いている鈴掛だった。




