759話
雄太がフランスへ渡る当日、雄太は
春香と子供達を連れて空港に向かった。
本当にギリギリまで春香と子供達と一緒にいたかったのだ。
「頑張ってきてね、雄太くん」
「ああ。今の俺が出来る精一杯でやってくる。力を尽くしてくるから」
「うん」
凱央と悠助は、いつもの仕事にいくのではないとは分かっているようだ。玄関での見送りではなく、高速道路を走り空港まで来ているのだから。
「パパ、オシゴトイクノ?」
「そうだぞ、凱央。パパ頑張ってくるから、ママと弟達を頼むな」
「ウン。ボク、オニイチャンダカラ。パパモ、オシゴトガンバッテ」
「ああ」
凱央を抱き締めて思いっきり頭を撫でてやる。悠助は泣きそうな顔で雄太を見上げている。
雄太がフランスに行くという事は理解出来なくても、恐らくいつもと違う何かを感じていたのだろう。
「パーパー」
「ほら、悠助」
雄太が大きく腕を広げると、悠助は胸元に縋りついた。
「悠助もお兄ちゃんだよな? パパがお仕事に行ってる間、良い子にしてるんだぞ?」
「ン。イイコシユ」
当たり前だが俊洋は全く分かってなくて、ベビーカーに乗ってニコニコと笑っている。しゃがみ込んで小さな手を握りフリフリしてやる。
「俊洋、良い子にしてろよ? ママとお兄ちゃん達と良い子で待っててくれよな」
「ダゥ……ダダゥ……バァ」
どれだけ触れ合っても時間が足りない。逆に触れ合えば触れ合う程に離れ難くなる。
だが、春香が淋しくてもフランスへ行く事を応援してくれているのだ。立ち上がり春香を見詰めるとニッコリと笑い返してくれる。
「春香、目一杯頑張ってくるから。絶対後悔するような騎乗はしないって約束するよ」
「うん。私、目一杯応援してるから。どれだけ離れてても、どれだけ遠くても届くように応援してるから」
少し目を潤ませながらでも、頑張って笑っている春香を抱き締めた。
「春香の夢を叶えるから」
「雄太くんの夢を叶えてね」
雄太はしっかりと春香の目を見て頷いた。
「パパ、ガンバッテネ〜」
「パーパー、バンバエ〜」
子供達の声援に雄太はギリギリまで手を振っていた。
雄太を見送った後、春香は子供達を連れて展望デッキに行った。凱央と悠助は広い空港で何機もある大きな飛行機を見てテンションが上がりまくっていた。
「ヒコーキ、オッキイネ〜」
「ブーン、ブーン」
ゆっくりと飛び立っていく飛行機や着陸してくる飛行機を見て、俊洋も目を輝かせている。
最愛の人が海を越えた遠い国へと行ってしまいしばらく会えない淋しさが込み上げてくる。じんわりと涙が滲んでくる。風が揺らす髪を直すふりをして涙を拭った。
(雄太くん、頑張ってね。私、精一杯目一杯応援してるからね)
春香と子供達は飛び立っていく雄太の乗った飛行機を見送っていた。
全員の手には、青いリボンを複数本が握られている。目の良い雄太は飛行機の中から展望デッキのリボンがヒラヒラと揺れているのが見えた。
(ありがとう、春香。凱央、悠助、俊洋……。頑張ってくるからな)
「さぁ、ご飯を食べてお家に帰ろうか? 何が食べたい? お子様ランチ? オムライス?」
「ボク、オコサマランチガタベタイ〜」
「オトタマランチ〜」
俊洋と悠助はピョンピョンと跳ねている。
春香はニコニコと笑いながらベビーカーを押しながら、子供達と共に展望デッキを後にした。
もう一度、飛行機が去った方向を見上げる。
(いってらっしゃい、雄太くん。大好きな大好きな雄太くん)
凱央がパジャマ姿で笑っている。
「ママ、オヤスミナサイ」
「おやすみ、凱央。明日も元気に幼稚園に行こうね」
「ハ〜イ」
凱央は笑顔で手を振りながら自室へと向かった。
春香は俊洋のオムツを替えてベビーベッドに休ませ、悠助は春香の部屋でベッドへ潜り込んだ。
「マーマー、オヤチュミ」
「おやすみ、悠助」
春香は悠助の頭を撫でてやり、寝入ったのを見届けてコレクションルームへ向かった。
雄太の数々のトロフィーや口取り写真を見詰めながら、雄太の活躍を祈っていた。




