756話
夏競馬の遠征で雄太は札幌へと出かけた。まだ自宅には慎一郎と理保がいるからと、いつもより安心していた。
(安心だけど……やっぱり春香や子供達に会えないのが淋しいぞ。どうやって帰ってくるか考えなきゃな、うん)
相変わらず春香と子供達に会える日を確保しようと考えまくっている雄太である。
「タダイマ〜」
「チャタイマ〜」
幼稚園に行っていた凱央とお迎えに行っていた悠助の元気な声がリビングにいた理保の耳に届く。
パタパタと廊下を走る足音が聞こえ、ドアを開けた凱央が理保に花を差し出した。
「バァバ、オハナアゲル〜」
「あらあら、ありがとう凱央。綺麗ね」
「バァバモ、ママモキレイダヨ」
「……凱央、そんな言葉をどこで覚えたの?」
「マタチタンガ、オシエテクレタヨ。オンナノコニハ、チャントキレイッテイワナイトダメッテ」
「あら、梅野くんが?」
理保は苦笑いを浮かべていた。
春香が俊洋を抱っこしながら小さなガラスの花瓶に水を入れて持って来てくれた。
「ありがとう、春香さん」
「いえ。私もこの捻花好きなんです。可愛いですよね」
理保は小さな花瓶にクローバーと捻花をいけた。
「ええ。不思議な咲きかたよね。クルクルって回りながら上っていくなんてね」
「そうですね」
理保と話していると、凱央は悠助を連れて洗面所に行き手を洗って戻ってきた。
「ママ。テ、チャントアラッテキタヨ」
「マーマー、アチャッチェチタ」
「凱央も悠助も良い子ね。オヤツの用意するから、凱央お手伝いしてね」
「ハ〜イ」
「アイ、オヤチュ〜」
理保は立ち上がり、悠助をハイチェアに座らせた。
「バァバ、アリアト」
ニッコリと笑った理保は、俊洋を抱っこしている春香に手を差し出した。意味を理解した春香は、理保に俊洋を抱っこしてもらった。
「ダダゥ……アゥ……」
「俊洋も良い子よ?」
俊洋も上の二人と同じように大人しくて愛想が良い。知らない人が声をかけたりしてもご機嫌なのだ。
春香は冷蔵庫に行き、冷やしておいたわらび餅を出していった。凱央はわらび餅のお皿をテーブルに置いていった。
「ハイ、バァバ」
「ありがとう、凱央」
「ワヤイモチ」
「悠助、いただきますしてね」
「イタアチマチュ」
凱央はンショと自分の椅子に座り、手を合わせた。
「イタダキマス」
「いただきます」
理保も手を合わせ、凱央も悠助も笑顔でわらび餅を食べた。
(本当に、梅野くんたら幼稚園児に何て事を教えたのかしら……。でも、間違ってないのよね)
雄太と共に札幌にいる梅野に、理保は次に会ったら何て言おうかと考えていた。
「フエックシッ‼」
「梅野さん、風邪っすか?」
「いや、なんか鼻がムズってした。可愛い女の子が噂してんのかなぁ〜」
ニヘラっと笑う梅野に、雄太と純也はヤレヤレといった感じだった。
「なんだよぉ〜」
「いえ、別に何でもないです」
「何もないっす」
梅野は鼻をグシグシと擦りながら口を尖らせた。
「梅野さんはモテますからね」
「雄太、何で棒読みなんだよぉ〜」
梅野は雄太の胴に縋りついた。そして、そのままツンツンとつついた。
「ちょっ‼ ブハハハッ‼」
「ちゃんと、梅野さんは可愛い女の子にモテモテって言え〜」
「ブハハッ‼ つつかれてっ‼ ブハハハッ‼ 言える訳ないっ‼ じゃないですかっ‼」
ジタバタとする雄太とガッツリ雄太の体を抱きかかえつつきまくる梅野の様子を、純也はお菓子をポリポリと食べながら見ていた。
「おいっ‼ ソルっ‼ ブハハハッ‼ 助けろってっ‼」
「え? 俺、これ食ってるから忙しいんだよな」
純也は大袋のポテトチップをボリボリと食べている。
純也は助けに入らないと分かった梅野は、更に雄太の脇腹をつついたりくすぐったりしていた。
「ブハハハッ‼ もう……もう……限界ですっ‼」
「フッフッフ。ほら、は・や・く言えってぇ〜」
「ブハハハッ‼ 無理……無理ですってっ‼」
雄太の部屋は相変わらず賑やかだと先輩達は呆れながら笑っていて、後輩達は興味津々で聞き耳を立てていた。




