749話
ケーキも食べてごちそうさまをした子供達が遊べるように、オードブルなどをダイニングへと移動する。
「ありがとうございます。次はビールてすか? ワインですか? 日本酒もありますよ」
長テーブルを片付けた鈴掛達に、春香はニコニコと笑った。
「俺は日本酒もらおうかな?」
「春香さん、俺も日本酒を〜」
「俺はビールお願いするっす」
「はい」
各々《おのおの》好きな酒を答えたのを聞き、春香は冷やしたグラスや酒をテーブルに出す。
春香の部屋で俊洋のオムツ替えをしていた雄太がダイニングに戻り、子供達が仲良く遊んでいる姿を見ながら、産まれたはかりの頃や宮参りの時の話をしていた。
ふと、鈴掛が真面目な顔で皆に爆弾発言をした。
「俺な、近い内に結婚しようと思ってる」
唐突な発言に一瞬の沈黙が広がった。
「えぇ〜っ⁉」
「け……結婚っすかっ⁉」
「鈴掛さんが……結婚……?」
三人三様の驚きかたに鈴掛が照れ笑いのような苦笑いのような表情を浮かべる。
「あの綺麗な人っすか?」
「まぁな」
「何歳の方なんですかぁ〜?」
「……歳……」
「え?」
「……二十八歳だ……」
質問に答えていく鈴掛の言葉に、また沈黙が訪れた。
「わ……若いっ‼」
「ちょっ‼ 俺や春香さんと同い年ぃ〜っ⁉」
「……鈴掛さんが……そんな若い人と……結婚……」
「そんなに驚く事か……?」
ほんのりと頬が赤いのは、酒に酔っているからか照れているからか……。
「鈴掛さん、おめでとうございます」
「ありがとう、春香ちゃん。春香ちゃんだけは、まともな反応でホッとするよ」
「はい?」
キョトンとした顔をしている春香を見ていると、やっぱり凱央達と似ているなと鈴掛は思った。
「ま、とりあえずは報告だ。入籍する日が決まったら、また言うから」
「入籍して、結婚式は後日って事ですか?」
自分と同じように、入籍してから結婚式をするのかと思った雄太が訊ねる。
「ん? 結婚式は……なぁ……。俺、再婚だし」
「でも、お相手のかたは初婚なんですよね? なら、式をしても良いんじゃないですか?」
「確かに彼女は初婚だけどな」
鈴掛は頬を指先でポリポリと掻きながら答える。雄太はグイッと身を乗り出す。
「なら、フォトウェディングとか、ガーデンパーティーって言う身内と友達を呼んでとか、色々ありますよ?」
「そう……か? てか、何でそんなに前のめりなんだよ?」
「何かしらしてあげて欲しいんですよ。結婚式じゃなくても、思い出になるような事を」
「雄太……」
雄太は、結婚式の時の春香を思い出したのだ。お腹は大きくなってはいたが、結婚式をして良かったと思っていたからだ。
「鈴掛さんは再婚だけど、彼女さんが初婚なんだから、何か一生の思い出を作ってあげてください」
「そうですよぉ〜。再婚だからって結婚式をしちゃいけないって事はないって思いますよぉ〜?」
「そうっすよ。良いじゃないっすか、結婚式」
「お前ら……」
会った事もない女性ではあるが、雄太達は鈴掛と幸せになって欲しいと願っているのだ。
「分かった。お前らの気持ち、彼女に話してみるよ。ありがとうな」
雄太達は照れくさそうに笑う鈴掛が眩しく見えた。
(やっと……やっと元の奥さんや娘さんの事を、鈴掛さんの中で決着がついて前に進む気持ちになれたんだ……)
元妻に嘘を吐かれ、金を毟り取られ、溺愛していた娘が元妻と同じような金に執着する人間になってしまっていた。
あの頃の鈴掛が、どれだけ辛かったのか雄太達は知っている。知っているからこそ、幸せになって欲しいと願っているのだ。
「それでな、慎一郎調教師の元家あるだろ? 今借りてる人が夏ぐらいに退去するって事で、その後に俺が買わせてもらおうかと思ってるんだ。その……雄太はそれでも良いか?」
鈴掛は雄太に真剣な顔を向けた。
「何の問題もないですよ。あそこは父さんの持ち物であって、売ろうが貸そうがかまいません」
「そうか」
鈴掛は、自分の相続財産になるであろう慎一郎の土地建物に執着しない雄太の頭をグリグリと撫でた。




