744話
午後から雄太の誕生日を祝いに純也達が訪れた。
晴れて暖かい事もあり、ウッドデッキにガーデンテーブルなどを出しての誕生パーティーにした。
「サクランボの木か」
「良いねぇ〜」
鈴掛と梅野は、植えられたばかりのサクランボの木を見ながら穏やかな笑みを浮かべる。
慎一郎が孫達とサクランボを収穫したいという気持ちが伝わってきたのだ。
「なぁ、雄太。サクランボっていつ食えるんだ?」
「五月から六月だってさ。実が小さいから、花が咲いて食べられるまでの期間が短いらしいぞ」
純也はすでに食べる気満々のようだ。
「ソルが食っても良いのは凱央達が食べた後だからな?」
「分かってるっつぅの。いくら俺でも子供達を押し退けて食わねぇって」
「なら良いけど。ソルだからなぁ〜」
「どういう意味だよっ⁉」
鈴掛達にも食い尽くすのではという目を向けられ、純也はプゥと頬を膨らませた。
孫達と早く実を採ったりしたいと思った慎一郎が選んだ木は、まだ小さい木ではあるが花がいくつか咲いている。
「なぁ、あの花は実がなるのか?」
「どうだろな? てか、やっぱ食う気満々じゃないか」
「ちっげぇよっ‼」
雄太と純也のやりとりがおかし過ぎて、笑うのを必死で堪えていた春香もついに吹き出してしまった。
「春さん、信じてくださいっすっ‼」
「え? あ……はい。ふふふ」
「本当っすよっ‼ 世界中で春さんだけは俺を信じてくれるって思ってるっすからっ‼」
俊洋を抱っこしながら、クスクスと笑っている春香だけは信じてくれると、純也は拳を握り締めて力説する。
何とか味方を増やしたい純也はチラリと子供達を見た。だが、凱央も悠助もローストチキンに齧り付いていて、純也の話は全く聞いていなかった。
「チビーズ……」
ガックリと肩を落とした純也に、また皆が涙を流さんばかりに爆笑をする。
何とかケーキの苺で凱央と悠助を味方につけようとした純也だが、子供達が話を理解出来ていないので空振りに終わった。
夜になり凱央が自分の部屋で寝ると言い出した。
「パパも一緒?」
「ウウン。ボク、ヒトリデネラレルヨ」
「一人で?」
「ウン」
春香に訊ねられて、凱央はリビングで遊んでいた芦毛馬のぬいぐるみを抱えた。
雄太は目を丸くして固まっている。
「パパ、ママ。オヤスミナサイ」
そう言って、凱央はテッテッテとリビングを出て行った。リビングのドアがパタンと閉まってから、雄太と春香は顔を見合わせた。
「……大丈夫かな?」
「分かんない……」
二人でそっとリビングのドアを細く開けて覗いてみると、凱央はトイレの前にぬいぐるみを置いてトイレを済ませ、階段のほうに向かって行った。
小さな足音がトントンと響き、パタンとドアが閉まる音が聞こえた。
「……一人で部屋に行ったな」
「うん。行ったね」
「んん〜。自分から言い出したんだよなぁ……。とりあえず大丈夫だと思うけど」
「そうだね。もし、目が覚めて淋しくなったら、私の部屋に来る可能性あるかも知れないね」
「だな」
雄太は、心配そうな顔をしている春香の肩を抱いた。
「雄太くん?」
「凱央は成長してるんだよな。ちょっと淋しいけど、さ」
「うん」
雄太自身も少し淋しいとは思っていた。
(あ、これって悠助がパパっ子じゃなくて、お兄ちゃん子だと思った時に感じたのと同じだ……)
雄太はそっとリビングのドアを閉めた。春香の部屋では、悠助と俊洋がスヤスヤと眠っていた。
(今は淋しいって思ってても、俊洋が起きたら、そんな事思ってらんないんだよな)
俊洋が夜中に泣いて起きたら悠助も起きてしまうのだ。つられて泣きはしなくなったが、少し寝不足になるのかしっかりと昼寝をしている。
だからと言って悠助がどこで寝るかは強制はしてなかった。悠助の意思を尊重している。
「じゃあ、俺もそろそろ休むよ」
「うん。おやすみなさい」
「おやすみ、春香」
雄太は自室に行きベッドに潜り込んだ。
翌朝起きた時、いつの間にかベッドに潜り込んでいた凱央の姿に声にならない叫びを上げた雄太だった。




