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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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739話


 二月に入り、雄太はG2目黒記念も征した。


 春香が里帰り出産をしている間に二度も重賞を勝ったという事で、直樹は思いっきり舞い上がっていた。


 雄太が仕事を終えて帰ってきたタイミングで春香の家にいそいそとやってきた。


「雄太、祝勝会って毎回やるのか?」

「派手なのはしてないですよ? 居酒屋で仲間内でって感じのが多いですね」


 直樹が何が言いたいのか察した春香が不服そうな顔をする。


「お父さん、勝手にお店予約とかしちゃ駄目だからね?」

「え゙……」

「雄太くんの祝勝会は雄太くんが決めるんだから」


 春香に言われると直樹は捨てられた仔犬のような表情になる。


「それに、今祝勝会しても私は行けないよ? 凱央達も行けないし」

「う……」


 まだ産後一カ月にもなっていない春香が、授乳が必要な俊洋を連れて祝勝会に出られるはずもないのだから、春香の言い分はもっともなのだ。


「お義父さんのお気持ちだけ、ありがたく頂戴します」

「雄太ぁ……」


 娘婿の優しさにウルウルしながら、直樹は店に戻って行った。


「お父さんたら……。ごめんね、雄太くん」

「良いよ。お義父さんのお祝いしたいって気持ちは本当にありがたいって思ってるから」


 前に春香が直樹は雄太が義理の息子になった事を喜んでいるのだと聞かされていたのが思い出される。


「それなら良いけど。あ、今日は凱央の部屋の進捗状況見てきてくれたんだよね?」

「ああ。良い感じに仕上がってきてたぞ」

「良かったぁ〜」


 現在、雄太宅の二階では四月から幼稚園に通う凱央の一人部屋を造る作業をしているのだ。


 工事業者の出入りや差し入れは理保が申し出てくれた。


 『俊洋がこっちに戻ってから工事してもらったら、落ち着かないでしょう? 俊洋と春香さんが、昼間でもゆっくり寝られるように、二月中に工事を終わらせてもらうほうが良いわ』


 雄太達は理保のありがたい申し出に甘える事にした。


「最初は一人で寝られないとか言うかも知れないけど、その時は俺もサポートするからな」

「うん。お願いね」


 俊洋の出産前は、春香の部屋にダブルベッドとセミダブルベッドを置いていた。そこに俊洋のベビーベッドを入れなければならない。それでも狭いという事はないのだが、夜泣きで凱央達が起きてしまうのではないかと心配になったのだ。


 その懸念と、幼稚園に通うようになったら部屋を与えたいと思っていたのもあり、凱央の希望を訊きながらの部屋造りをしている。


「凱央が一人で寝られるようになるかの心配もあるけど、お兄ちゃん子の悠助が一緒に寝たいとか言ったら、それはそれで心配だな」

「それありそうだね」


 退院後、俊洋と春香。雄太と子供達が一緒の部屋で寝ている。週末、雄太が調整ルームへ行っている時は、直樹か里美が凱央達と寝るようにしてくれている。


「まぁ、やってみなきゃ分からないって事もあるから、栗東の家に戻ってから臨機応変でやっていこう」

「うん。考えても答えは出ない事だしね」


 過保護にもしたくないが、心配は尽きないものだと思う。


 そんな雄太達の心配をよそに、凱央は悠助に絵本を読んでやっている。


「お義母さん、医者をやっていなかったら保母さんやれてたかもな」

「だよね〜」


 春香が入院してからの一週間で、凱央は文字をスラスラと読めるようになっていた。


 幼稚園に通うようになった時の為にと、多少は春香も教えていたのだが、ところどころつっかえていたのだ。


「自分の名前もしっかりと書けるようになったしな。もしかしたら、凱央は俺の子供の頃より賢いかも知れない」

「雄太くん、そういうところもお父さんそっくりだよ」

「う……」


 直樹は凱央に似顔絵を描いてもらい、それを額に入れて飾っている。


 白衣を着た直樹の姿と隅に平仮名で『じぃじ』『ときお』と書いてあり、直樹は里美に呆れられるぐらい舞い上がっていたのだ。


 『里美っ‼ 凱央は天才だなっ‼』


 その話を聞いた時、苦笑いを浮かべながらも、直樹の気持ちが雄太には思いっきり分かったのだ。


 雄太も凱央が描いてくれた似顔絵を額に入れて飾っているのだから。







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