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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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738話


 週末の1月30日に阪神競馬場で開催された京都牝馬特別G3に雄太は出場する。


(雄太くん、頑張ってね)


 俊洋を抱っこしながら、病室のテレビを見ていた。


 パドックでキリリとした雄太を見て思わず顔が緩んでしまう。


「俊洋、パパの応援しようね」

「ダァ……」


 オムツも替えて、しっかりおっぱいを飲んだ俊洋はご機嫌だ。小さな手だけでなく、足も懸命に動かしている。


「ふふふ。俊洋はお腹にいた頃から、この可愛い足で一生懸命蹴ってたよね」

「アバァ……ウキャウ……」


 授乳クッションの上で俊洋はンションショと手足を動かし、掛けていたバスタオルをズラしていく。


 春香は片手でバスタオルを掛けなおしてやりテレビに視線を戻す。


 凱央と悠助は直樹に連れられ医院長室の大きなテレビで競馬中継を見ると言って病室を出て行った。


 きっと医院長室でワーワーやっているだろう。


「わざわざ日曜日に病院に来て、凱央達と競馬見たいとか、重幸伯父さんたら、もう」


 春香は重幸が子供達を可愛がってくれていて嬉しい反面、自分の子供達との時間を持って欲しいなと思っていた。


(あ、もうゲートインしてる。雄太くんの応援しなきゃ。頑張れ、頑張れ雄太くん)


 さすがに大声で声援を送るわけにもいかないので、無言で拳を握り締めていた。



✤✤✤



 軽くノックが響き、病室のドアが開いた。


「ただいま、春香」

「おかえりなさい、雄太くん。優勝おめでとう」


 重賞を勝った事で、雄太はニコニコ顔だった。


 春香は横になっていたベッドから起き上がり両手を広げた。


「ありがとう、春香」

「格好良かったよ」


 雄太はベッドに近づき、ギュッと春香を抱き締めた。春香の温もりと優しい笑顔で仕事の緊張が解けていく気がする。


 新生児ベッドから俊洋の声がした。


「ンバァ……」

「俊洋、ただいま。もしかして、おかえりって言ってくれたのか?」


 阪神競馬場から直接病院に向かいたいと思い、調整ルームでしっかりと風呂に入ってきた雄太はそっと新生児ベッドから俊洋を抱き上げた。


「パパ頑張って一着獲ってきたぞ」

「アバァ……」


 小さな小さな手を伸ばしている俊洋に頬を寄せる。赤ん坊のなんとも言えない匂いに顔が緩む。


「あ、今日競馬場で月城さんに会ったよ。で、俊洋の事を伝えておいた」

「今日、月城様の馬も出走してたもんね。ありがとう」


 月城に俊洋の事を伝えたという事は、自称春香の父親達にも伝わるだろう。きっと大喜びしてくれるだろうなと雄太も春香も思った。


「家族が増えましたって葉書を早く出さなきゃね」

「そうだな。ちゃんと写真撮ったし」


 雄太の仕事関係や知り合いと春香の関係へと送る挨拶状は、直樹がパソコンで作成してくれている。


「あ、今回はちゃんと退院出来るんだよな?」

「うん。貧血もないし、月曜日に退院だよ」

「良かった。じゃあ、月曜日に迎えにくるからな」

「うん」


 立ち合い出産も出来たし、産後の経過も順調で退院も予定通りだと聞いて雄太はホッとした。


「フワァ……ンァ……ンァ……」

「ん? どうした俊洋」


 顔を赤くして泣き出した俊洋を雄太は背中をポンポンしてやる。


「あ、もしかしたらオムツか?」


 三人目だという事で、雄太の対応は慣れている。俊洋を寝かせ新生児ベッドの下段に置いてあるオムツを手にした。


 春香がベッドから降りようとすると、雄太はそのままオムツを替えだした。


「俺がいる時は任せてくれって。週末には出来ないんだしさ」

「うん。ありがとう」


 キチッとオムツを替え、病室の隅の手洗い場で手を洗っている雄太に、春香は惚れ惚れしていた。


(何も言わなくても子供と触れ合ってくれて、赤ちゃんのお世話してくれるんだもんなぁ〜。やっぱり雄太くんは優しくて素敵な旦那様だな。私、幸せだな)


 振り返った雄太は、春香の頬が赤く染まっている事に気がついた。


「どうした?」

「えへへ。雄太くんが旦那様で嬉しいし、大好きだなって思って」


 結婚して何年も経っているのに、変わらずに好きと言ってくれる春香に嬉しくなった雄太だった。







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