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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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737話


 春香が俊洋を出産した翌日、調教終わりに雄太は江川厩舎へ向かった。


「江川調教師(せんせい)、昨日はお気遣いありがとうございました。無事に産まれました」

「そうか、そうか。無事産まれて良かったな。春香さんも元気か?」

「はい、男の子でした。妻も息子も元気です」

「おお、そうか。良かったな」

「はい」


 慎一郎と歳が変わらない江川は、薄っすらと涙を浮かべて喜んでくれた。


「慎一郎調教師(せんせい)も喜んでおられただろう」

「ええ。三人目だとは思えないぐらい舞い上がってました」

「ハッハッハ。目に浮かぶようだよ」




 その後スタンドに行った雄太は、純也達にも報告した。


「おぉ〜。産まれたか」

「元気で良かったなぁ〜」

「雄太がもう三人のパパか。スゲェ〜」


 バシバシと背中や肩を叩いて喜んでくれる。


「三人目も男の子かぁ〜。俺の嫁は四人目かぁ〜?」

「まだ言ってるんですか……。俺の娘は梅野さんの嫁にはさせませんから」

「えぇ〜。俺の可愛くて若い嫁ぇ……」


 わざとらしくガックリと肩を落とす梅野の肩を、純也がバシバシと遠慮なく叩く。


「梅野さん、いい加減諦めてくださいっすよ。雄太の子が結婚出来る歳になったら、梅野さんはおっさんですから」

「んだとぉ〜。俺はおっさんじゃない〜」

「いや、充分立派なおっさんっすよ?」


 純也と梅野がじゃれ合っているのを、雄太と鈴掛が冷めた目を向ける。


「ソル、お前もだからな?」

「純也、お前もだからな?」


 雄太達に冷たくツッコまれ、純也達は揃って口をあんぐりと開ける。


「俺は雄太と同い年だから、おっさんじゃねぇだろっ⁉」

「そう言う問題じゃないから」

「俺は三十になっても、四十になってもおっさんじゃないってぇ〜」

「充分おっさんだぞ?」


 雄太達の周りで話を聞いていた騎手や調教師達もゲラゲラと笑い出す。


 相変わらずな四人だなと笑っていた人達が、スタンドを離れてから雄太のところに三人目の男の子が生まれたと話し、あっという間にトレセン内に話は広まった。


 そして、慎一郎もホクホク顔で孫の誕生を話しまくっていたのだった。




 一度マンションに寄り、病室に顔を出した雄太に、春香は穏やかな笑みを向けた。


「おかえりなさい、雄太くん」

「ただいま、春香。俊洋、もう部屋に来てたんだな」

「うん」


 雄太は同室になった俊洋の新生児ベッドに近づき覗き込んだ。


「アバァ……」

「俊洋、ただいま。パパだぞぉ〜」


 俊洋の握られた小さな手を指先で撫でる。


「俊洋の手には、どんな夢が握られてるのかなぁ〜」

「ふふふ。どんなだろうね。どんな夢でも叶えて欲しいね」


 俊洋は、どんな風に育っていくのだろう。凱央達のように馬だけでなく動物好きになるだろうか。


 軽くノックの音がして直樹が子供達と入ってきた。


「お、雄太。おかえり」

「お義父さん、ただいまです」

「パパ、オカエリ〜」

「パーパー、オチャチャイ」

「凱央、悠助。ただいま」


 凱央と悠助は並んでテッテッテと新生児ベッドに近づく。


「パパ、トチヒロオキテル?」

「起きてるぞ」

「トチヒロ、ミセテ」


 雄太は凱央を抱き上げて俊洋が見えるようにしてやる。


(凱央は生まれた時、3010gだったんだよな。俊洋より40g軽かったんだよなぁ〜)


 それが今では14kgだ。平均より少し軽いが、それでも重くなったなと思う。


「トチヒロ、ニィニダヨ」

「ウバァ……」

「オヘンジシタァ」


 凱央はえへへと嬉しそうに笑う。ふと足元を見た雄太は吹き出しそうになった。


(悠助、順番待ちが出来るようになったんだな)


 悠助はウズウズとした様子を見せたはいるが、凱央を押し退けてまでと言わずに雄太を見上げているのだ。


(悠助もお兄ちゃんになったな。我慢も出来るようになったし)

「凱央、悠助にも俊洋を見せてやろうな?」


 そう言って凱央を下ろして悠助を抱き上げた。


「チョヒヒヨ」

「バゥア……」


 代わる代わる弟の姿を見せてもらい、凱央と悠助はキャッキャと喜んでいる。


 そんな微笑ましい姿に、雄太達は弟を可愛がってくれるのだろうなと思って安心した。






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