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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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736話


 とりあえず慎一郎達は明日の仕事の事もあり自宅に戻ると言う。


「春香さん。俊洋と同室になる前に、ゆっくり体を休めてくれ」

「また明日来るわね」

「ありがとうございます。お義父さん、お義母さん」


 慎一郎達は、また新生児室に寄って帰ると言って病室を後にした。雄太は見送る為に一緒に出て行った。


 慎一郎達を見送った直樹は凱央と悠助を連れて、重幸の所に行くのだと言って立ち上がった。


「お……お父さん。子供達を医院長室で遊ばせるつもり?」


 春香は慌てて引き止めた。


「兄さんが連れて来いって言ってるんだよ」

「もう……。重幸伯父さんたら」

「私も一緒にいくから安心しなさい」

「うん」


 春香は呆れながらも、里美が一緒なら直樹と重幸の暴走も心配ないと笑って見送った。


 入れ替わりに、慎一郎達を見送りがてら売店に行っていた雄太が戻ってきた。


「なぁ、春香。お義父さん達が医院長室へ行くって言ってたけど……」

「重幸伯父さんが子供達と遊びたいから医院長室に連れてきてくれって言ったらしくて……」

「医院長室で……か?」


 苦笑いを浮かべる春香が答えると、雄太の頬がヒクヒクと引きつる。


(医院長室って……子供の遊び場にして良いものなのか……?)


 恐らく特別室に入り浸り子供達と遊んでいると体裁が悪いと、重幸の妻に叱られたのだろう。


「あ、春香。いちごミルクな」

「ありがとう」


 雄太は椅子に座って缶コーヒーを開ける。


「なぁ、春香。ちょっと訊いて良いか?」

「なぁに?」

「子供達の名前の事なんだけど、凱央って春香が決めただろ?」


 春香はストローでいちごミルクを飲みながら頷く。


「で、俺が悠助ってつけたいって言って決めた。もし、悠助って決めなかったら東京優駿って出来なかったろ? その時はどうしてた? てか、東京優駿ってしようっていつ決めたんだ?」

「えへへ。東京優駿ってなるようにしたいって思ったのは、凱央が男の子って分かった時だよ。親の自分勝手って言われるかなって思ったんたけどね」


 雄太が口をポカンと開ける。


「でね、『ゆうしゅん』はどうしようかなって思ってたんたけど、雄太くんが悠助って名前にしてくれて、やったぁ〜って思ったの」

「えっと、えっと……。偶然って言うか、たまたま……って事か?」

「私の想いが雄太くんに伝わった……って感じだよ」


 春香は頬を赤らめ照れくさそうに笑う。


 雄太の憧れのダービーを名前にと考えたのが、そんなに前だとは思っていなかった。そもそも『東京優駿』を名前にしたいなんて欠片も思っていなかった。


「ありがとうな、春香。どの子の名前も良いって思うのに、俺の夢をガッツリ入れてくれてくれて。それとお疲れ様だな」

「うん」


 雄太はそっと春香の肩を抱き、キスをした。




 帰宅した慎一郎は、雄太達から年賀でもらっていた日本酒をチビチビ呑んでいた。


(凱旋門賞に……ダービー……か)

「嬉しそうですね、あなた」

「ん? そりゃな。あんな洒落しゃれの効かせた名前をつけられたら嬉しい以外の言葉は思いつかん」

「そうですね」


 理保は筑前煮を慎一郎の前に置くと、慎一郎は理保に笑いかけた。


「理保も一杯どうだ? 三人目の孫が生まれた祝って事で」

「あら、良いですね」


 座りかけた理保は立ち上がり、食器棚から猪口を取り出す。


 慎一郎に酌をしてもらい、二人は目の高さまで猪口を上げて笑い合う。


「美味いな。今日の酒は格別だな」

「本当に」


 気持ちで酒の味も変わるのだなと慎一郎は思った。


「三人目も男の子……か。雄太達には言えんが、三人目の内の誰かが騎手になってくれたらなと思うのは、爺の身勝手な夢だろうか?」

「あなたの夢なら良いんじゃないですか? 雄太達や孫に押しつけなければ」

「うむ」


 また凱央を乗馬に連れて行こうと思ったり、悠助はまだ早いから来年かと思ったりしていると頬が緩む。


(俊洋も乗馬させてやろう。その前に、孫三人と口取り写真を撮れるように明日からも頑張らねばな)


 雄太の夢が多くあるように、慎一郎の夢もどんどん増えていくのだった。






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