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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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735話


 少しして里美に春香を任せて一度分娩室を出た雄太は、扉を開けた途端、慎一郎達に取り囲まれた。


「ウオッ⁉」

「雄太っ‼ 孫はっ⁉」

「無事産まれたのでしょうっ⁉」

「男の子かっ⁉ あの泣き声は男の子だよなっ⁉」


 目を輝かせて迫られて雄太は目を白黒させた。


「あ……否……。ちょっと落ち着いて。無事産まれたよ。3050グラムの元気な男の子だ。春香は疲れてるけど元気だよ」

「おぉ、男の子か」

「そう。元気な泣き声だったものね」

「春も元気で良かった」


 慎一郎達と直樹は手を握り合って喜んでいた。その親達の姿に雄太は嬉しくて嬉しくて堪らなかった。




 その後、病室へと戻った春香は里美に体を拭いてもらい着替えサッパリしていた。


「ありがとう、お母さん」

「良いわよ。これぐらい大した事じゃないんだから」

「うん」


 その時、ノックの音がして新生児室に行っていた雄太達が戻ってきた。 


「ママァ〜。オトウトミテキタァ〜。カワイイネ」

「マーマー。オチョウチョ」


 凱央と悠助がキャッキャとベッドに駆け寄ってきた。春香が手を伸ばして頭を撫でてやると嬉しそうに笑う。


 雄太はベッドサイドに置いておいた命名書と筆ペンを手に取った。


「父さん、命名書を書いてくれるか?」

「ん? 今回は東雲さんにお願いしてくれ」


 ソファーに座っていた慎一郎に言うと、思ってもない言葉が帰ってきた。


 直樹も驚いた顔で固まっている。


「え?」

「儂は凱央と悠助の時に書かせてもらったからな。東雲さん、お願いしてもよろしいか?」


 にこやかに笑う慎一郎に、苦笑いを浮かべた直樹だが、慎一郎の申し出を引き受けた。


「分かった。じゃあ、書かせてもらうよ。名前は?」

「名前は俊洋としひろです。俊は俊足や俊敏の俊。洋は太平洋の洋です」


 直樹は命名書にスラスラと書き出した。


 『俊洋 1994年1月25日15時35分生まれ』


「ありがとう、お父さん」

「ああ。名前の意味を教えてくれるか?」

「才能に恵まれて、積極的にチャレンジしてもらいたいっていうのと、広く大きな海のような心を持って欲しいって意味があるの」

「そうか。良い名前だな」


 慎一郎達も直樹達も春香の話を聞いて、ニコニコと頷いていた。


「えっと……ね。もう一つ意味があるんだよね」


 頬を赤らめて照れくさそうに言う春香に、雄太達の視線が集まる。


「え? 俺、聞いてないんだけど……?」


 慎一郎達も直樹達も固まっている中、雄太が訊ねた。


 春香はベッドサイドに置いていた命名書の保護紙とボールペンを取って雄太に渡した。


「これにね、凱央って平仮名で書いて」

「うん」


 雄太は平仮名で『ときお』と書いた。


「次は悠助のゆうね。あ、平仮名ね」


 『ときお』の次に『ゆう』と書く。


「その次は、俊洋の俊を音読みの『しゅん』って書いて読んでみて」


 春香に言われるがまま雄太が書いた。


 『ときおゆうしゅん』


「ときおゆうしゅん……。え?」


 雄太の目が大きく目を見開いた。雄太の手元を覗き込んでいた慎一郎が春香の顔を見た。


「春香さん……。これは……まさか……。東京優駿……ダービーなのでは……」


 慎一郎の声は小さく震えていた。


 雄太は無言でジッと見ていた文字が歪む。


「雄太くんの夢と私の願いを子供達の名前に込めてみたの。子供達には重いかも知れないかなって思ったけど、一人一人の意味もちゃんと考え……。雄太くん?」


 春香は、ボールペンを握ったまま微動だにしない雄太の顔を見た。雄太の睫毛が涙で濡れていた。


 言いたい事はあるのに言葉が出なかった雄太は、黙って春香を思いっきり抱き締めた。


(春香は……俺の夢を……)


 春香は驚いたが、雄太の背中をポンポンと叩いた。その姿を見た凱央と悠助はンショとベッドの上で立ち上がり、雄太の頭や腕を撫でた。


「パパ、ナイテルノ? イイコイイコシテアゲル」

「パーパー、エンエン?」


 子供達に気づいた雄太は顔を真っ赤にした。


「と……凱央……。悠助……」


 慎一郎達も直樹達も、必死で笑いを堪えていた。






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