726話
ケーキを食べた凱央は、小さな手を合わせた。
「ゴチトウサマデチタ」
「お腹いっぱいになったか?」
「ン。オイシカッタ」
そう言うと、凱央は雄太にハイチェアから下ろしてもらった。そして、リビングに向かってテッテッテと走っていった。
「お? 凱央、ご馳走様したんだな?」
「ン」
リビングに移動して酒の肴をつまみながら呑んでいた鈴掛が話しかける。
「凱央、お箸上手に使えるようになったなぁ〜」
「お兄ちゃんになったもんな」
梅野と純也に言われて、凱央はニッと笑う。そして、リビングボードと上を指さした。
「マタチタン、コエトッテ」
「ん? ビデオテープかぁ〜?」
梅野が立ち上がり、ビデオテープを取ってやった。凱央に手渡すとペコリと頭を下げる。
「アリガト。サンタタンガクエタノ」
「サンタさんからのプレゼントがビデオテープなのかぁ〜?」
「ン。ミンナデミユノ」
「よしよし〜」
梅野はテレビをつけ、ビデオデッキにテープを入れた。
爽やかな青空が映し出され、ゆっくりと場面が変わりアレックスの姿が映し出された。
「お? これアレックスじゃないか」
「デビュー直後ぐらいかな? グレーが濃いし」
鈴掛と純也も画面に目をやる。凱央はソファー前に座った。後から来た悠助は大好きな凱央の隣に座り、パチパチと拍手をする。
穏やかな表情で馬房で外を見ていたり人参を食べたりする姿や放牧地で草を食んだり、駆けている姿の合間に、写真を取り込んだと思われる雄太とのツーショットが映る。
「へぇ……。良いじゃないか」
鈴掛が呑む手を止めて画面を見詰めている。純也と梅野は深く頷く。
厩務員に世話をされているところや、装蹄師に蹄鉄を打ち替えしてもらっているところの合間には、春香に甘えている写真があった。
そして、レースのダイジェストが映し出され、最後は引退式の様子が流れた。
「アウネ、ホッカイローイッチャッタノ」
「そうだな」
淋しそうに言う凱央の頭を撫でながら、純也が小さく笑う。
「デモ、パパガホッカイローツエテイッテクレルンダヨ」
「お? そうか。楽しみだな」
「ン」
映像の最後には、引退式で撮影されたアレックスと春香、凱央、悠助の写真が映った。
そして、『また会おうね』の文字が流れ、そこで終了となった。
リビングから地下のコレクションルームへ呑む場を変えた雄太と純也達はチビチビとやっていた。
「なぁ、雄太。あのビデオすごかったな。感動したぞ」
「あれ雄太が作ったのかぁ〜?」
鈴掛と梅野は酒で赤くなった顔で笑う。
「俺は無理ですよ。飯塚調教師や牧場のほうに素材を提供してもらって、家にあったレース映像と写真を組み合わせてもらって、プロに依頼したんですよ」
「そっか。凱央はもちろんだけど、悠助も喜んでたな」
「あれって、アレックスから凱央への手紙って感じだなぁ〜」
雄太はニッと笑った。
「さすがにアルをプレゼントしてはやれませんからね」
「また会おうね……が、ジーンときたんだよな」
雄太と春香が一生懸命考えたんだろうなと思い純也達は、アレックスのビデオを思い出しほっこりとしていた。
春香の寝室で、悠助はスヤスヤと眠っていて、凱央は芦毛馬のぬいぐるみをポフポフとしていた。
「ねぇ、凱央。何で悠助にイチゴ食べさせてあげたの?」
「アノネ、ボクガオメエトシテモラエテタリャ、ウースケガサビシソウナカオシタノ」
春香は凱央の優しさが嬉しくなった。
(悠助には凱央の誕生日だからっていうのが理解出来なかったんだな……。こるは私の判断が甘かったのかな……)
凱央と悠助の差をつけずにいようと思っていたが、誕生日は別だと思ってしまっていた。
「凱央は優しいね。ママ、優しい凱央が大好きだよ」
「ボクモ、ママダイシュキ。パパモ、ウースケモ、ダイシュキ」
凱央はニコニコと笑っていたが、しばらくするとスヤスヤと眠りについた。
(凱央の優しさは雄太くん譲りかな)
春香は地下でワイワイしているであろう雄太を思い、凱央の髪を撫でてから眠った。




