724話
12月に入り、山手であるトレセンの周囲はすっかり冬という感じになっていた。
だが、雄太宅では庭に出てワイワイと賑やかである。
「ジンウウベ〜、ジンウウベ〜」
ウッドデッキ脇に置いてあるモミの木のクリスマスの飾り付けをする手伝いをしながら、凱央はご機嫌で歌っていた。
「ジングルベル〜、ジングルベル鈴が鳴る〜」
「ジンウウベ〜、ジンウウベ〜」
春香の歌声を真似をして歌う凱央を見ながら、雄太は苦笑いを浮かべている。
(凱央の音程が微妙にズレてるのは、まだ幼いからだよな? 俺の遺伝じゃない……よな?)
歌う事に集中してしまうと、凱央はリンゴの飾りを持ったままになってしまう。
「ニィニ、インゴ〜」
「ソウダヨ、ウースケ」
「ン」
モミの木が少し大きくなったから、雪だるまやサンタクロースなど、子供達が喜びそうなオーナメントを買い足した。箱に入れてあるのを見て悠助が嬉しそうに笑う。
「凱央、次はそれを飾るのか?」
「アイ。ウキダウマ」
リンゴを飾った凱央が手にしたのは雪だるま。
「雪だるま」
「ウキダウマ」
「ゆ・き・だ・る・ま」
「ユキダルマ」
「お、完璧だな」
凱央の頭を撫でてやっていると、悠助は雪だるまのオーナメントを箱から取り出す。
「ニィニ、ウチチャウチャ」
「ウースケ、ユキダルマダヨ」
「ン」
雄太は悠助を抱き上げた。
「ほら、悠助。ここの枝に飾ろうな」
「ン」
悠助は小さな手に持った雪だるまのオーナメントを飾り付けた。
「パパ、ボクモダッコシテ」
「よし、凱央はサンタさんだな」
「アイ」
全体的にバランスよくオーナメントを飾り付け、雄太は電球のプラグを手にした。
「よ〜し。さぁ点灯式だぞぉ〜」
子供達は並んでパチパチと拍手をしている。
雄太がウッドデッキにある屋外コンセントにプラグを刺した。チカチカと点滅をしはじめた電球を見て、子供達はキャッキャとはしゃぐ。
「ウースケ。チカチカ、キエイダネ〜」
「ン。チエ〜」
凱央は何度もピョンピョンと跳ね、悠助は口を開けてクリスマスツリーを見上げていた。
その様子をカメラで撮った雄太はニッコリと笑った。
「冷えてきたし、そろそろ家に入るぞ」
「モウチョット、ミテユノ」
「言う事を聞かない子のところにはサンタさんプレゼント持ってきてくれないんだぞ?」
「オウチハイユ」
子供には、『サンタさんのプレゼント』と言う言葉の効果は抜群のようだ。
最近、春香がサンタクロースの話の絵本を読み聞かせていて、凱央はプレゼントを考えていると春香は言っていた。
家に入ると凱央は雄太を見上げた。
「パパ、サンタタンクルヨネ」
「ん? 凱央はサンタさんに何が欲しいってお願いしたんだ?」
雄太に訊かれて、凱央は顔を輝かせた。
「ントネ、アウガホチイッテオネガイシタ」
「……え? アル?」
雄太の目が真ん丸になった。まさか、クリスマスプレゼントにアレックスが欲しいと強請られるとは思っていなかったのだ。
「ン。イッショニアソブノ。アウ二、ノッテハシユノ」
「お……おう。アルと遊びたいのは分かるけど、乗りたい……か」
ポニーに乗るのでさえやっとの凱央にサラブレッドに乗りたいと言われて、どうしようかと思ってしまった。
(いやいや。それ以前に、アルは飼えないしなぁ……)
そんな話をしても、幼児に理解が出来るだろうかと思いながら、チラリと春香を見た。
春香は悠助のコートを脱がしながら、苦笑いを浮かべていた。
(うん。凱央は春香に似てるんだな)
自転車に乗れない春香が『自転車を買うなら、馬を飼う』と言った事を思い出して吹き出しそうになった。
(いやいや。笑ってる場合じゃないって。ちゃんと考えてやろう……)
「凱央のプレゼントどうしようか……?」
「ん〜。さすがにアルを引き取るのは無理だもんね」
春香の部屋で、芦毛馬のぬいぐるみを抱いてスヤスヤと眠っている凱央を見詰めながら話す。
二人は凱央へのプレゼントに頭を悩ませるが、クリスマスまで後二週間しかないのである。




