715話
たこ焼きをツマミに鈴掛はビールを飲んでいた。
「梅野、お前って本当に器用だな」
「そうですかぁ〜?」
「たこ焼き屋の親父になれるぞ」
「親父じゃなくて、せめて『たこ焼き屋の兄ちゃん』って言って欲しいですぅ〜」
鈴掛と梅野のやり取りは相変わらずだと皆が爆笑する。
誰よりも多く食べている純也は、凱央達と同じように口の周りにソースをつけたまま話す。
「マジでたこ焼きに就職出来るっすよ。スッゲェ綺麗な真ん丸に焼けてるし。しかも、外はカリッとして中がトロッフワッで美味いっす」
「褒めてくれんのは嬉しいけど、とりあえず口周り拭けよぉ〜。チビーズと変わんないぞぉ〜?」
純也は慌てて口の周りを拭いた。
雄太は笑いながら、凱央と悠助の口周りについたソースを拭いてやっている。
「マタチタン、オイチィ〜」
「オゥオゥタァ〜」
「そっか、そっかぁ〜。チビーズ、いっぱい食べるんだぞぉ〜」
子供達にも気に入ってもらえて、梅野も上機嫌だ。
「梅野、そろそろ代わるぞ」
「そうですか? じゃあ、後は鈴掛さんお願いしますぅ〜」
汗を拭きながら梅野はビールをグビッと呑んだ。
「梅野さん、顔洗ってきたほうが良くないですか? 冷やさないと汗止まりませんよ?」
「あ〜。そうだなぁ〜」
雄太に言われて、梅野はリビングを出て洗面所に向かった。
「ホットプレートでも、結構熱いんすね」
「そりゃそうだろうよ」
「お好み焼きとか鉄板で焼くのは熱いってのは知ってたんすよね」
「お前は、熱いモン食ってるから熱いってのもあるんだぞ?」
「あ〜。そっすね」
食いに集中している純也が、梅野に代わり焼いている鈴掛に言う。
「あの……鈴掛さん、私にも出来ますか?」
「春香ちゃん、やってみる?」
「やってみたいです」
鈴掛はニコニコ笑いながら、春香にたこ焼きの焼き方を教えた。春香は、上手く丸く出来ないようだが、楽しそうにひっくり返していた。
たこ焼きパーティーを存分に楽しみ、子供達と遊んだりした鈴掛達は日頃の疲れが吹っ飛んだ気がした。
「今日は本当にありがとうございました」
「春香ちゃんと子供達が楽しんでくれて良かったよ」
「春さん、またやろうっす」
「春香さんが喜んでくれるならお安い御用だよぉ〜」
雄太と春香と子供達が門の外まで出て見送り、純也達は笑顔で手を振りながら帰っていった。
鈴掛達がプレゼントだと置いていってくれた大きなホットプレートは、色んなプレートがセット出来る物で、これからも色々使えそうだと思いながら、雄太はキッチン脇のパントリーにしまった。
春香は雄太用のコーヒーと自分のホットミルクをテーブルに置いてダイニングチェアに腰掛けた。
「雄太くん、今日は本当にありがとう」
「春香がやりたかった事をやらせてやれて、子供達にも負けない笑顔を見せてくれて、俺も嬉しかったぞ」
「えへへ。たこ焼き焼くのは難しかったけど、面白かったよ。子供達も本当に楽しそうだったし」
ドアを開けた春香の部屋では、凱央と悠助が買い足したダブルベッドでアザラシのぬいぐるみとスヤスヤ眠っている。
そんな二人の子供達を見ながら、話している時間が雄太達は大好きだ。
「今度は、お好み焼きをしても良いな」
「うん。子供達にホットケーキ焼いてあげたりも出来るね」
「そうだな。たこ焼きのプレートで、鈴カステラ作れそうじゃないか? 子供達もだけど、春香も好きだろ?」
「うん。子供達のオヤツにピッタリだし。何か楽しみがいっぱい増えたね」
あれもやりたい、これもやりたいと色々と話していると、悠助の声がした。
「ンニュ……タタンニャ……」
目を覚ましたのかと思い、雄太達が立ち上がり様子を伺うと、悠助はスースーと寝ていた。
「もしかして……寝言……?」
「寝言……だな」
二人は顔を見合わせて、必死に笑いを堪える。
「悠助も寝言を言うんだね。雄太くんと凱央と同じだぁ〜」
「う……。そこは親子と言う事で」
「うん」
きっと悠助も楽しかったのだろう。寝ながらフニャっと笑っていた。




