704話
良い感じに腹が膨れたところで、梅野が大きな箱を持ち、後ろに春香が大皿と絞り袋に入った生クリームとフルーツの皿を持ってウッドデッキに出てきた。
「悠助ぇ〜。悠助へのプレゼントだぞぉ〜」
「アゥ?」
梅野が箱から取り出したのは、どこからどう見てもバケツだった。
「バケツ……?」
「なんすか?」
「ふふ〜ん。まぁ、見てろってぇ〜」
梅野はバケツの蓋を開けて、春香に手渡された大皿をかぶせた。そして、裏返してバケツの底のシールを剥がす。
「悠助、見てろよぉ〜?」
「ウヤァ〜」
梅野がソォ〜ッと両手でバケツを持ち上げると、ゆっくりと姿をあらわしたのは……。
「おぉ〜。デッケェ〜」
「プイン〜。プインラァ〜」
純也が目を見開き、凱央がパチパチと拍手をする。
「バケツ……プリン……」
雄太も目を真ん丸にして唖然としている。
悠助は目をキラキラと輝かせている。春香はプリンに生クリームとフルーツでデコレーションを施した。
後ローソクを立てて火を点けるだけと言うところで、凱央の慌てた声がした。
「ウースケ、タベチャラメ。ウースケ」
全員の視線が悠助に向いた。
「ゆ……悠助……。おま……」
「あぁ〜。悠助ぇ……」
春香が皿に乗せて置いた生クリームの絞り袋を両手で持ち、チュパチュパと食べていた悠助がニィと笑っていた。
握り締め過ぎた所為で生クリームは溢れ出し、手や口の周りだけでなく、テーブルも生クリームだらけになっていた。
「届かないって思ったのにぃ……」
「ははは……」
泣きそうな顔をした春香の背中を、雄太がポンポンと叩く。
「マーマー、ウマウマァ〜」
「うん。良かったね……。私、子供の成長を甘く見過ぎてるね……」
凹みまくりながらも、悠助の手から絞り袋を取り、おしぼりで口や手を拭う。
「ほら、悠助。手をパーしろ」
「パーパー」
「いや、俺じゃな……」
悠助の手を拭こうとした雄太が手を広げた仕草をしたのを見た悠助は、手を広げて雄太の頬に生クリームのスタンプを押した。
「悠助……」
「パーパー」
鈴掛達だけでなく、春香も涙を流して笑ってしまった。
何とか生クリームの処理をして、雄太はローソクに火を点ける。
「ほら、悠助。フーするんだぞ?」
「フー」
悠助は三度かかってローソクを吹き消した。
「おめでとう、悠助」
「ウースケ、オメエト」
春香と凱央に言われると、悠助は満面の笑みを浮かべる。
大きな大きなプリンは、サーバーを置いておき各人好きなだけ食べてもらうようにした。
「マタチタン、プインオイチィ〜。アイアト〜」
「お、美味いかぁ〜」
「ダァウオンマァ〜」
「へ?」
「マタチタン。ウースケモ、オイチィッチェイッチェウ」
「そっかぁ〜。凱央の通訳、凄いぞぉ〜」
凱央と悠助と梅野のやり取りが面白くて、理保はクスクスと笑っている。
慎一郎も、可愛い孫達の様子にご満悦の様子だ。
「あ、お義父さん。凱央が新しく言葉を覚えたんですよ」
「ん? 春香さん達の名前の他にかね?」
「はい。凱央、ジィジィとバァバのお名前教えて」
春香に言われた凱央は慎一郎達のほうを向いた。
「ジィジハ、タタパネチーイチオウ。バァバハ、タタパネイホ」
スプーンを持った右手を高々と挙げて、大きな声で答えた凱央に、慎一郎は固まり、理保は目を潤ませる。
「おぉ……。そうか。ジィジの名前を言ってくれるのか」
「嬉しいわ、凱央」
目を丸くして凱央をマジマジと見ていた鈴掛達が口々に呟く。
「ついこの前まで赤ちゃんだって思ってたのに……」
「子供の成長って……マジスゲェ……」
「偉いなぁ……。凱央ぉ……」
褒められた凱央はニィーと笑って、またプリンを食べだした。
「ニィーニィー」
「アイ、ウースケ」
「ニィーニィー」
「ウースケ、プインオイチィネ〜」
「イォチャウダァ〜」
「アイ。アーンシテクラサイ」
「ンマンマァ〜」
凱央と悠助の会話は微笑ましく、凱央がイチゴを悠助に食べさせている姿は、雄太と春香だけでなく、慎一郎達の心にも温かいものを溢れさせた。




