685話
3月15日(月曜日)
前日14日に誕生日だった雄太の誕生パーティーを皆が協力して準備していた。
「凱央、それも入れるのか?」
「ン。イエユノ」
「ま、大丈夫だろ」
リビングの隅で、純也と凱央は工作に夢中だ。春香はキッチンでせっせとオツマミ作り、鈴掛と梅野はオードブルや寿司を受け取りに行っている。
雄太は悠助と一緒に春香の部屋に押し込められている。
「なぁ、悠助。みんな何してるのか分からないけど楽しそうだな」
「アゥダァ、ンバァ〜」
「そう言えば、お前はママの誕生日の時も、ここに閉じ込められてたよな」
ベビーウォーカーに乗せられいる悠助は、凱央がお気に入りだった馬のぬいぐるみの新バージョンをポフポフとしている。
(凱央も悠助も、このぬいぐるみ好きなんだよな)
雄太が手に取って追いかけっこのようにすると、キャッキャと笑うところもそっくりだ。
「ンマンマンマァ〜」
「ん? 腹減ったのか?」
雄太が時計を見ると、ドアが開いた。
「雄太くん、悠助。お待たせ」
「ンマンマンマァ〜っ‼」
「悠助……。余程お腹減ったんだね」
「みたいだな」
悠助の大きな声に春香は苦笑いを浮かべた。
雄太がドアを大きく開くと、リビングでは純也が大きなくす玉を持って笑っていた。
「く……くす玉っ⁉」
「俺と凱央で造ったんだぜ。な、凱央」
「アイ。バンバッチャ」
「そっか。凱央、ありがとうな」
可愛いドヤ顔をしている凱央の頭を撫でやると、満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ、くす玉割ってくれ」
「ああ」
純也の掲げているくす玉から伸びた紐を引っ張ると、中から風船や小さく切った色紙と一緒に、凱央のお気に入りのアレックス似のぬいぐるみまでが出てきた。
白い垂れ幕に『雄太誕生日おめでとう』と書かれていた。
「は……派手だな。でも、ありがとう」
「パッパ」
「ん?」
凱央がトテトテと雄太に近づき、一枚の画用紙を差し出した。
「パッパ。オタンドービオメエト」
「え? あ……」
画用紙に描かれているのは、ヘルメットを被り鞭を持っている雄太の似顔絵だった。三歳児の描いたものであるから、予想でしかないが、隣にはアレックスらしき灰色の馬のようなものも描かれている。
「ありがとうな、凱央」
「アイ」
雄太は膝をついて凱央をギュッと抱き締める。
「あれ? 雄太、泣いてんのか?」
「嬉しいもんなぁ〜」
純也と梅野の言葉に、雄太は照れ笑いを浮かべた。鈴掛はうんうんと頷いていた。
「ンマンマンマァ〜っ‼」
「うはぁ〜。悠助が飯くれ〜ってなってるぞ」
ベビーチェアに座った悠助はテーブルをペチペチと叩いた。純也は笑いながら、くす玉の中身を簡単に片付けた。
「ごめんごめん、悠助。じゃあ、始めようか」
乾杯をして、皆好きな物を食べていく。凱央も悠助も、梅野が買ってきてくれたフルーツサンドを無心で食べていた。
「美味いかぁ〜? 凱央、悠助」
「ンマンマンマ」
「オイタン、オイチィ〜」
「凱央ぉ……。俺はおじちゃんじゃないと何度言ったらぁ……」
崩れ落ちる梅野の姿に、皆笑い転げる。
「凱央、梅野さんの事はおじちゃんで確定しちゃってますよね」
「雄太、頼むからおじちゃん以外で呼ばせてくれぇ〜」
薄っすらと涙を浮かべている雄太に、梅野は縋るように言う。
「俺達が梅野さんって言うから覚えちゃうんだろな。何か違う言い方を覚えさせないと、この先もおじちゃんかも知れないから……。あ、凱央」
「アイ?」
「この人は……」
雄太がおじちゃんから違う言い方を教えようとした時に、純也がニヤリと笑う。
「凱央、この人は真希おじちゃんだぞ?」
「ウ? マタチオイタン?」
「そう。真希おじちゃんだ」
純也がおじちゃんを外さずに教えたものだから、梅野は純也を背後から脇腹を掴んだ。
「純也ぁ〜。お前と言う奴はぁ〜っ‼」
「ブハッ‼ 脇腹は駄目っすぅ〜」
「おじちゃんはやめろって言ってんのにぃ〜」
くすぐられている純也を見て、凱央が目を丸くする。
雄太宅は相変わらず賑やかだ。




