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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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677話


 12月7日(月曜日)


 アレックスが栗東へと戻ってから、初めて飯塚厩舎を訪れた春香が、馬房の手前でアレックスを呼んだ。


「アル」


 もしかしたら顔も声も忘れられているかも知れないと春香は不安だったのだが、アレックスは物凄い勢いで馬房から顔を出した。


「ウオッ⁉ アル……。お前、相変わらずだな」

「大丈夫ですか?」

「大丈夫っすよ。お前なぁ〜、どれだけ春香さんが好きなんだよ。また、鷹羽さんにヤキモチ焼かせるつもりか?」


 アレックスの鼻面が、水桶を運んでいた厩務員の顔面に危うく当たりそうになったのだ。


「……今の漫画とかだったら、『ズザァーッ‼』とかの効果音がつくぐらいの勢いだったよな」

「うん。そんな気がする」


 呆れ顔の雄太と苦笑いを浮かべている春香と、前掻きをして早く撫でてと催促しているアレックスの対比がおかしくて、当番の厩務員達は忍び笑いをしていた。


 ベビーカーに乗っている悠助も、横に立っている凱央も目がキラキラと輝いていた。


「アル、久し振りだね。会いたかったよ」


 春香が近づくと鼻面を寄せてくる姿は本当に可愛いと思っている。ただ、アレックスの馬体重は500kgを超えているから、体が可愛いかどうかは微妙なところである。


 鼻面や鼻筋を撫でられていたアレックスは、春香に顔を寄せた。春香は背伸びをしてアレックスの首を抱き締めている。


「アレックスが心配かけてごめんって言ってるように見えるな」

「あ、飯塚調教師(せんせい)。そうですね。人間の野郎だったら、ブン殴ってやりたくなる感じですけどね」

「だろうな」


 飯塚は、ベビーカーに乗っている悠助を覗き見る。


「ふむ。凱央ちゃんは、どちらかって言うと雄太くん似だが、悠助ちゃんは春香さん似だな」

「やっぱりそう見えます? 凱央はどんどん俺の小さい頃に似ていってるようですよ」


 雄太の小さい頃を知っている調教師達からそう言われる事が多い。


「そんな感じだな。それにしても、相変わらずアレックスは春香さんにベッタリだな」

「アルの奴、マジで俺に対する態度と全く違うんですよね。馬なのに猫被るとかありえないですよ」

「ハッハッハ。確かに猫被っとるな」


 飯塚は大きな声で笑った。


「マッマァ〜。アウ、ナデユノ〜」


 アレックスを撫でたくて堪らなかった凱央が春香を呼ぶ。トレセンの中では勝手に馬房などに入っては駄目だと言われているのを、しっかりと覚えている凱央はベビーカーの横でウズウズとしていた。


「はいはい。来ても良いよ。ちゃんと前と下を見て歩くのよ?」

「アイ」


 凱央は、しっかりと足元と前を交互に見ながら馬房に入る。凱央の手がアレックスに触れるぐらいに抱き上げた。


「アウ、イイコイイコ」


 アレックスも凱央きの事を覚えていて、春香が抱き上げた凱央の手が届く位置に顔を下げてくれる。


「アル、一生懸命怪我を治したんだよ。早く走るアルが見たいね」

「ン。アウ、バンバユンラオ」


 そこに、悠助を抱き上げた雄太が近づく。それに気づいた春香がアレックスに笑いかける。


「アル。この子は悠助って言うの。アルと会うのは初めてだね。凱央の弟なんだよ」


 アレックスは初めて見る悠助をジッと見ている。そして、スッと鼻を近づけた。


「悠助、アルだよ。パパの大切な相棒だよ」


 悠助は大きなアレックスに驚いた様子もなく、そっと手を伸ばす。指先がアレックスの鼻にチョンと触れる。


「アバァ〜」

「仲良くしてやってね、アル」


 ニコニコと笑う悠助が満足するまで、アレックスは大人しく悠助に撫でさせていた。


 凱央と悠助の手を洗わせてもらい、春香はベビーカーのハンドルにぶら下げていた袋からタッパーを取り出した。


「リンゴと人参持ってきたんだよ。まだたくさんはあげられないけど」


 春香がタッパーを開けると、アレックスの鼻がヒクヒクと動く。そして、激しい前掻きが始まる。


「ふふふ。アルは可愛いね」


 アレックスは春香が差し出したリンゴをシャクシャクと良い音を立てて食べる。その様子をみながら、雄太は早く乗りたいなと思って見詰めていた。





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