673話
9月13日(月曜日)
週末に三勝した雄太は、春香の誕生日を祝う為に、せっせと準備をしていた。
「盛大に祝いたいよなぁ〜。二日早いけどぉ〜」
「春香ちゃんには色々世話になってるからな」
梅野と鈴掛は、飾り付けをする為に細工物を作っていた。雄太は長テーブルを並べたり、グラスを冷やしたりしている。
春香はというと、悠助と共に春香の部屋にいた。
「アバァ~。ンタタタァ〜」
「ふふふ。ねぇ、悠助。お兄ちゃん楽しそうだね」
ガタガタと何かを動かす音やキュッキュという音。そして、凱央の楽しそうな笑い声が聞こえる。
「凱央、これをパパに持ってってくれ」
「アイ、ウォウ〜」
純也に言われた凱央のトテトテと走る音も聞こえる。
(ふふふ。凱央、お手伝いしてる)
ご機嫌で手足をフリフリしている悠助を見ながら、リビングの賑やかさに笑いが込み上げる。
しばらくしてコンコンとノックの音がし、ドアを開けた雄太がニッコリと笑う。
「春香、準備出来たぞ」
「うん」
「ほら、悠助行くぞ」
部屋に入った雄太は悠助を抱っこする。
春香は部屋を出ると、目を潤ませて立ち止まった。カラフルなバルーンアートがリビングのあちこちに飾られている。
「凄い綺麗……。可愛い……」
「マッマ、メート」
「凱央……」
凱央が手にしていたのは、風船で造った王冠だった。春香は床に膝をついて目線を合わせる。
凱央が春香の頭に王冠を乗せて、ギュッと抱きついてくれる。春香もギュッと凱央を抱き締めた。
「マッマ、キェ〜」
「ありがとう、凱央」
その様子を見ていた鈴掛達はニッコリと笑っていた。もちろん、梅野は何枚も写真を撮影してくれている。
「鈴掛さん、梅野さん、塩崎さん。ありがとうございます。嬉しいです」
「おめでとう、春香ちゃん」
「春香さん、おめでとうぉ〜」
「春さん、おめでとうっす」
皆から花束をプレゼントされ、雄太から大きな箱を渡された春香は嬉し涙を溢した。
「雄太くん、ありがとう……」
「パッパ、メッ‼」
「え? 俺っ⁉」
雄太が泣かせたと凱央に叱られ、鈴掛達は腹を抱えて笑った。春香は苦笑いを浮かべた後、凱央の頭を撫でてギュッと抱き締めた。
乾杯をし、オードブルやサンドウィッチを食べ、イチゴたっぷりのケーキに春香だけでなく、凱央も悠助も目をキラキラと輝かせた。
「パッパ、パッパ。イチオタベユ〜」
「凱央、ちょっと待てって」
ケーキというよりイチゴが目当ての凱央だったが、フォークに刺したイチゴを凱央が春香に向ける。
「マッマ、ア〜ン」
「食べさせてくれるの? アーン」
「ドウジョ」
それを見ていた悠助もイチゴを食べたがり、雄太が小さくしたイチゴを皿に乗せると貪り食い、また皆で笑い合う。
「イチゴ好きは春香の血だな」
「そうかも」
食事の後、凱央と悠助は鈴掛が造ってくれたバルーンアートで遊ぶのに夢中だった。
パーティーが終わり、凱央と悠助は春香のベッドでスヤスヤと眠っている。
雄太と春香はリビングのソファーで並んで座っていた。
「雄太くん、本当にありがとう」
「春香の楽しい顔が見られて、俺も嬉しかったぞ」
「うん」
雄太の批判記事を目にするたびに、春香が胸を痛めているだろうと思っていた。
春香は笑って大丈夫だとは言ってはいたが、やはり笑顔になれるように何かしたいと鈴掛達に話したのだ。
『俺の大好きな笑顔を見せて欲しい。我慢させている分、何かしたいんだ。俺が、いつ重賞を勝てて、変な記事を書かれたりしなくなるか分からないから』
雄太に相談された鈴掛達は、例え一日でも良いから春香に思いっきり笑ってもらおうと誕生パーティーの構想を練った。
雄太はプレゼントを考えまくった。春香はタンスの肥やしになるような物を欲しがる事はない。ならば、必要な物をと考え、軽くて温かいダウンコートを選んだ。
「あのコート、寒くなったら着させてもらうね」
「ああ。子供達連れて散歩しような」
「うん」
出会った頃と変わらない無邪気な笑顔の春香をしっかりと抱き締めた雄太だった。




