665話
6月1日(月曜日)
凱央と悠助が栗東の自宅へ帰り、マンションから居なくなる事が淋しいという気持ちが全身から醸し出しているような直樹と里美と共に、栗東へと向かった。
「おぉ〜。立派だな」
「良いお宅ね」
直樹と里美は、慎一郎達の新居を見て感嘆の声を上げた。
純和風といった旧宅とは違い、和風の良いところと洋風の良いところどりをした感じの広い平屋建てだ。
「いらっしゃい、東雲さん」
「車は、こちらにどうぞ」
出迎えてくれた慎一郎達に挨拶をした直樹は、慎一郎宅の駐車場に車を停めた。
雄太宅と同じように屋根付きの広い駐車場があり、直樹はそこに車を入れた。
「良い雰囲気ですね」
「雄太と春香さんが、目一杯土地を使ってくれて良いと申し出てくれたので、あえて平屋にしたんですよ。歳を喰ったら二階には行かなくなりますからな」
慎一郎と直樹は並んで話しながら、グレーと白の壁に木目がアクセントになっている真新しい家に向かう。
理保と里美は、そんな二人の背中を見ながら微笑んでいた。
慎一郎宅で一旦休憩をしてから、凱央の時と同じように宮参りへと向かった。
「あ、お義母さん。そこ段差ありますから足元気をつけてください」
「ありがとう、春香さん」
理保の背中に手を添えて歩く春香と、凱央に抱っこをせがまれてニコニコと歩く慎一郎の隣を雄太が歩く。
「父さん、疲れたら言ってよ。代わるから」
「ああ。凱央も重くなったな」
直樹と里美の後ろからは、今回もカメラマンを買って出た梅野が続く。
鈴掛と純也は仕出しの受け取り役に慎一郎宅に残ってくれている。
「ウースケ、ウースケ」
「悠助は良い子にしてるからな。凱央も良い子にしててくれよ?」
「アイ」
見慣れない晴れ着に包まれている悠助が気になって仕方ない凱央は、何度も理保に抱かれている悠助を覗き込んでいた。
和やかに、厳かに悠助のお宮参りは滞りなく行われた。
前回同様、巫女さんや参拝の女性からの視線を集めていた梅野だったが、かなりの数の女性達が凱央への黄色い声援上げているのを聞いて目を点にしていた。
「凱央……、お前は俺のライバルだなぁ〜?」
「ウ?」
「梅野さん……。凱央に変な事を教えないでくださいよ?」
梅野の言っている事が理解出来ない凱央がキョトンとした顔で雄太を眺めている。
「オイタン、イーコイーコ」
「俺は、おじちゃんじゃないぞぉ〜」
慎一郎は呆れ顔で眺め、直樹達と理保は忍び笑いをしている。
梅野は、キッと顔を上げておもむろに凱央を抱き上げた。
「これで凱央への声援も俺のだぁ〜。ほら、凱央。お姉様方に手を振るんたぁ〜」
「アイ」
イケメンの梅野が可愛い凱央を抱き上げている破壊力は凄まじかった。
「お義母さん、お疲れ様でした」
「ありがとう、春香さん」
悠助を雄太に任せた理保の肩を春香がマッサージをする。里美を中心に食事の準備をしていく。
「ジィジ、ンマタン」
「ん? おお、これはジィジが桜花賞を獲った時のだ」
リビングに飾っている慎一郎の騎手時代の写真に凱央は興味津々だ。慎一郎は凱央を抱き上げ、写真を一つ一つ見せていく。
白黒で、あまり画質は良くないが、誇らしげに腕を挙げている姿は、やはり雄太に似ていると春香は思っていた。
「ジィジ?」
「そうだぞ。ジィジだ」
「パッパ、タウ?」
凱央にも雄太に似ているように見えるのだろう。
「ジィジだ。パパと同じようにG1勝ってたんだぞ」
「ジィジ、アッコイイ〜」
「そうか、そうか」
凱央に褒められ、慎一郎の目尻はこれ以上ないぐらいに下がりまくる。
皆が優しい気持ちで、その様子を眺めていた。
「食事の準備出来ましたよ〜」
里美の声で、皆が長テーブルにつき、雄太が主役の悠助を抱いた。
「今日、悠助のお宮参りが無事に済みました。今後共、お力添えください」
雄太がキリッとした顔で挨拶をすると、皆が拍手をする。
悠助を含めた四人での生活が始まる。
賑やかな暮らしになるだろうなと皆が思って笑っていた。




