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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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663話


 月曜日の朝


「パッパ、パッパァ〜」


 布団に潜り込んで眠っていた雄太の耳に届いたのは凱央の声。小さな手が、ポフポフと布団を叩いている。


「ん……。あ、凱央。もう起きてたのか」

「ン。ゴアンデチタ」

「ゴアン? あ、朝ご飯出来たって事か。あ、おはよう、凱央」

「パッパ、アーヨ」


 雄太は、布団の中でググッと体を伸ばした後、起こしにきた凱央の頭を撫でる。


「起こしてくれてありがとな」

「アイ」


 体を起こすと、凱央の為にドアを開けていた春香と目が合う。クリーム色のふんわりした前開きのシャツと薄い水色のワイドパンツは、雄太が『悠助を無事産んでくれてありがとう』と、プレゼントした物だ。


 退院前にどんなのが良いかと訊ねたら、悠助におっぱいあげる為に前開きが良いと言われ、里美に相談しながら買ったのだ。


(春香に似合うのがあって良かったなぁ〜)


 優しく微笑みながら、雄太と凱央を見ている。何も言わずに笑っているという事は、雄太を起こす事を凱央にさせてみたという事だろう。


「おはよう、春香」

「雄太くん、おはよう。凱央、上手にパパを起こせたね。良い子だね〜」

「アイ」


 嬉しそうに笑った凱央は、トテトテとリビングに走っていった。


 凱央の変化は、昨夜帰宅した時に春香から聞かされていた。悠助が生まれた事で、凱央に何らかの変化があるのは良い事ばかりではないとは思っていたが、少し不安になっていた。


 『そこまで過剰に心配する事じゃないかも知れないけど、雄太くんには知っててもらいたいから』


 これから、どう変化していくのかも分からないし、良いのか悪いのかも分からない。春香も不安なのだろうと思い肩を抱いた。


(悪いほうにばかり考えても仕方ない。色んなパターンを考えなきゃな)


 雄太は春香の布団でスヤスヤと眠る凱央を見詰めていた。




「パッパァ〜。アヤク〜」

「あ〜。今行く」


 雄太は洗面所へ行き、顔を洗った。凱央が手を洗う為に抱き上げ踏み台に乗せてやる。手洗いも随分上手になったなと思いながら、タオルで綺麗に拭いてやると、凱央は雄太を見上げた。


「パッパ、アート」

「よし、朝ご飯食べような」

「アイ」


 雄太なりに凱央を見ていて、今のところこれといって気になる部分はないなと思いながらダイニングへ向かった。




 その後、凱央は雄太が仕事に行った事を忘れたりする事はなかった。


「ママが入院して居なかったから……って奴だったのかもな」

「そうかも知れないわね」


 直樹と里美と共に夕飯を食べていた春香は少しホッとした。


「今日も大丈夫だったんだろ? やっぱり母親の存在って大きかったんだな」

「そりゃそうよ」


 凱央はパクパクと鮭のムニエルを食べている。


 今朝も東京へ向かう雄太に声援を送っていた。その後は、褒めてもらえる事が嬉しいのかお手伝いをしていた。


「マッマ、オタワイ」

「はいはい」


 茶碗に少し冷ましたご飯を入れてもらい、大好きな玉子のふりかけをかけてもらうと、ニッコリと笑った。


「マッマ、アート」

「よく噛んで食べるのよ?」

「アイ」


 直樹も里美も、赤ちゃん返りで春香への負担が大きくなるかと心配していたので、元気な凱央の姿は嬉しかった。


「凱央、今日は誰と寝るんだ?」

「ン? バァバ〜」

「え? 凱央、ジィジとは三日も一緒に寝てないだろ? ジィジと寝ようか?」

「バァバ〜」

「ジィジ……」

「バァバ〜」

「凱央ぉ……」


 ニコニコ顔の凱央にアッサリとフラレた直樹はガックリと肩を落とし、春香と里美はクスクスと忍び笑いをしていた。




 寝るのは里美だと言っていたが、風呂は直樹が良いと凱央に言われ、直樹は金魚や大量の水風船を持ち込んだ。


「キャハハ〜。ジィジ〜」


 凱央の楽しそうな声とバシャバシャと水音が風呂場から漏れ聞こえてくる。


「賑やかね」

「うん。それは良いんだけど、もう一時間以上だよ?」

「あれだけはしゃげば、今夜はグッスリよ」

「うん」


 凱央だけでなく、直樹も疲れてグッタリとしてしまって、翌朝は何度起こしても起きなかった。




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