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第25章 凱央と悠助 659話

 病院に着く少し前、車載電話が鳴った。丁度信号で停まったタイミングだった雄太が出ると慎一郎からだった。


『雄太、お前今どこだ?』

「もう直ぐ重幸さんの病院だけど?」

『そうか。飯塚調教師(せんせい)が病院まで行きたいそうなんだが良いか?』

調教師せんせいが? お疲れでなかったら是非って伝えてくれるかな?」

『分かった。なら、後でな』


 慎一郎からの電話をきった雄太は、前方の信号を見詰めた。


「お父さんからだろ?」

「はい。飯塚調教師(せんせい)が春香に会いたいみたいなので良いかと訊かれました」

「飯塚さんって、アレックスの調教師さんだよな?」

「ええ。春香の事も凱央の事も可愛がってくれてる調教師せんせいです。さっきも悠助の誕生を喜んでくれて」


 引き上げた雄太と固く握手した飯塚からは、直樹の姿は見えてなかったが、観客の声で雄太の第二子が産まれたのが分かったようだった。




「もしかして……産まれたのか?」

「はい。義父が来てくれてました」

「おお、そうか。そうか、めでたいな」

「ありがとうございます」


 満面の笑みで喜んでくれている飯塚は、アレックスの優勝も相まって目尻は下がりまくっていた。アレックスの馬主オーナーも喜んでくれていた。


 先輩達や後輩達、新人達にも祝福をされた上、様々な職員からも祝福されて胸がいっぱいになったのだ。




「春がアレックスに何度も会いに行ったと言ってたんだ。調教師さんや厩務員さんにもよくしてもらったってさ」

「ええ。調教師せんせいや厩務員の方々とも仲良くしてますね。アルにいたっては、俺より春香のほうが好きみたいですよ。俺を見たら春香を探すぐらいだし」


 調教の時は、雄太がヘルメットを装備している姿から春香は居ないと分かっているようだ。だが、馬房で雄太の姿を見ると、春香を探して首を伸ばしているのだ。


「プッ」

「本当、俺そっちのけですからね。俺なんて目に入ってないだろって何度言ったか」

「アレックスって、そんな馬なんだな。あれだけ強いし、ストイックな感じしてたんだが」


 アレックスの普段の姿を知り、直樹は楽しそうに笑っていた。




 軽くノックをする音がして応答するとドアが開いた。


「パッパァ〜。ジィジ〜」

「おかえりなさい。雄太くん、おめでとう。お父さん、ありがとう」


 春香と凱央の笑顔に迎えられ、雄太は満面の笑みを浮かべた。直樹は優しく微笑んだ。


「ただいま、春香。ただいま、凱央」

「おかえりなさい。悠助、起きてるよ」


 雄太は新生児ベッドに歩み寄った。真っ白な産着を着た悠助が雄太をジッと見ている。


「悠助、無事産まれてくれてありがとうな」


 そっと手を伸ばして、小さな小さな手に触れてみる。凱央が生まれた時の事を思い出す。


「凱央もこんなだったんだよな。小さくて、ちょっと力を入れたら壊れそうな感じで」

「そうだね」


 そのまま悠助を抱き上げる事はしないで、雄太は先にベッドの春香の横に座っている凱央を抱き上げた。


「凱央、良い子にしてたか?」

「ン」


 凱央は雄太に抱っこをされるとニッコリ笑って頷いた。


「そっか」

「パッパァ〜、メート」

「ははは。ありがとうな、凱央」


 悠助が生まれる前に春香と決めた事は、出来る時だけで良いから凱央を優先してやるという事だ。悠助に手を取られるからといって凱央を後回しにしてばかりだと、凱央が可哀想だと思って決めた。


「また、ママと一緒にアルに会いに行こうな」

「アイ」


 充分凱央をかまってから、久し振りのヤワヤワした乳児の感覚にドキドキしながら悠助を抱いた。


「悠助、パパだぞ」


 その時、ノックの音がして、慎一郎だと思った雄太は声をかけた。


「春香さん、お邪魔するよ」

「飯塚調教師(せんせい)。わざわざありがとうございます」


 慎一郎と飯塚は、悠助を代わる代わる抱かせてもらい目を細めていた。


 その間、雄太は凱央と遊んでやっていた。凱央への優しい気持ちを持った雄太と、凱央のように悠助も皆に可愛がってもらえると良いなと春香は思って見詰めていた。





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