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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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657話


 翌4月25日、雄太は一勝を上げた。


 全レースを終えて、調整ルームでのんびりと食事をとっていた。雄太の隣には同じく一勝を上げた純也が、いつも通りの山盛り丼飯を前にホクホク顔をしている。


「なぁなぁ、明日は天皇賞だなぁ〜」

「ああ。アルの調子良いし勝ちにいくぞ」

「雄太、気合い入ってんな」

「アルに汚点つけちまったからな。調教師せんせいにも馬主オーナーにも、申し訳なかったしな。今度こそって思ってんだ」


 雄太は、煮物の人参を純也の器にポイポイと入れながら話す。純也も慣れたもので、放り込まれた人参をパクパクと食べ、白飯を頬張る。


「アレックスは天皇賞の連覇もかかってんだよな。G1の連覇かぁ……。カッケェーな。阪神大賞典の連覇もスゲェーって思ったけどさ。やっぱ、雄太はスゲェーよ」

「まぁ、連覇したいって思っても簡単には出来ないからな」


 素直に褒められて嬉しくなった雄太は、煮物の中に入っていた豚肉を純也の器に入れた。


 純也は媚びを売る性格ではないので、素直な感想だろうと雄太は知っている。


「そう言えばさ、春さんはまだなんだな。今日は直樹先生来てなかったし」

「そうだな。てか、気にしてたのか?」

「当たり前だろ? もしかしたらって思うじゃないか」

「ありがとうな。けど、春香の性格からして土曜日に報告はしないって」

「あ、そっか」


 もし、もう産まれていたとしても、直樹が来るのは天皇賞の後、雄太の全騎乗が終わってからだろう。


「雄太は12R出走ないよな? でいくと天皇賞が終わってから直樹先生が来てるか……だな」

「だな」


 雄太の出走のスケジュールは春香も把握している。だから、報告は日曜日の天皇賞が終わってからだ。


「俺は、天皇賞に出られないから客席を見とこうっと」

「レースはちゃんと見ろよ?」

「そりゃ見るって。俺だって出たいって思ってるし、出場馬の癖とかも知っときたいしさ」


 どの馬であっても、いつか一緒に走る時の為に見ておきたいと雄太はいつも思っている。それが純也も同じだと分かって雄太はホッとした。


「あ〜。サッパリした」

「あれ? 鈴掛さん、サウナ長かったっすね?」

「ちょっと搾りたくてな」


 鈴掛はガシガシと頭をタオルで拭きながら、水を飲んでいた。顔は血色が良くなっていて、しっかりと温まったと言う感じがしている。


「明日は、気合い入れなきゃだな」

「はいっ‼」


 鈴掛は、気合いを入れて拳を握る雄太と大盛りの丼飯を持つ純也に手を振って自室へと向かった。




(雄太くん、無事に生まれたんだよ。明日、アルと頑張ってね。テレビで応援してるからね)


 春香は、雄太がいる京都競馬場のほうを見て祈る。凱央は春香がニコニコと笑っているからご機嫌でぬいぐるみや積み木で遊んでいる。


 里美は一度自宅に戻り、おにぎりをはじめ、出汁巻き玉子や凱央用にタコさんウインナーなどを作って来てくれていた。


 タッパーを開けていると凱央がトテトテと近づき、里美がタッパーの中身を見せてやると嬉しそうな声をあげた。


「タコタン、イユ〜」

「ふふふ。凱央、タコさんウインナー好きだもんね。じゃあ、お手々洗いに行くわよ」

「アイ」


 春香の分は病院から提供されているが、凱央の分はお願いしてなかった。昨日は直樹と東雲に戻っていたり、今日のように朝から病院に来たりしているからだ。


 居ない時間に食事があっても無駄になってしまうのが、春香は嫌だったのだ。


「バァバ、オニイリ」

「はいはい。凱央は鮭が良いのよね」

「アイ。タタチマチュ」


 パクリとおにぎりを食べている凱央を見る里美の目は優しい。


「昨日の夜、少しだけグズってたのよ。春香を心配して泣いてて疲れてたはずなのにね」

「そうなの?」

「春香が陣痛でつらそうにしてたのを思い出したのかしらね」


 そんな事があったのかと、美味しそうにおにぎりを食べている凱央を見る。


(優しいところは、やっぱり雄太くんに似たんだなぁ〜)

「バァバ、タコタンタベユ」

「はい。よく噛んで食べるのよ?」

「アイ」


 第二子の誕生も嬉しいが、凱央の成長も嬉しいと春香は思った。




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