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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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654話


 4月24日(金曜日)


「春香、大丈夫か?」

「え? 何が?」

「何がじゃなくて、予定日過ぎてるだろ?」


 確かに予定日は過ぎている。一週間程度なら誤差なのだが、これから競馬場の調整ルームに入り、日曜日のレース終わりまで外部と遮断される雄太は気が気でないのだ。


 立ち合い出産希望をしている雄太は、平日に生まれて欲しかったと思っていたのだが、これから京都競馬場に行かなければならない。


「大丈夫だってば。今日は病院の日だしね」

「まぁ、いつ生まれるのかなんて分からないのは承知してるけどさ」

「私の事より天皇賞だよ。アルと走るんだし」

「いやいや。それって比べるモンじゃないだろ?」


 雄太にすれば天皇賞と出産は同じぐらい大切なものであり、生まれくる我が子は大切以外の何物でもない。


「それはそうだけど、雄太くんとアルには期待する人々の思いとか夢とかがかかってるんだからね?」

「……分かった。じゃあ、お互い頑張って自分の責任を果たそう」

「うん」


 雄太は春香にいってきますのキスをした。そして膝をついて凱央の頭を撫でる。


「凱央。ママの言う事を聞いて良い子にしてるんだぞ?」

「アイ。パッパ、バンバエ〜」

「頑張ってくるな」


 凱央が両腕を上げてフリフリして応援してくれて雄太は気力が増々になった気がして、意気揚々と京都競馬場へ向かった。




(ん? あれ?)


 カウンターの中で受付をしていた春香は、スッと胃がく感じがした。


(ちゃんとご飯食べたし……。もしかして)

「お母さん、赤ちゃんりたのかも」

「え? 分かったわ」


 里美は立ち上がりカウンターを出ると入り口に行き、『本日閉店』の札を下げた。店内には客は三人残っている。パソコンの予約欄を確認して時計を見る。


「病院は午後からだったわね?」

「うん。二人目って陣痛が来たら出産までが早いて……痛っ」

「言ってるそばから来たわね」


 客の湿布を終えた直樹がカウンターへ近づいてきた。


「春、どうした?」

「お父さん、陣痛きた」

「きた? よし、荷物は任せろ」

「うん」


 直樹は入院の荷物を取りに春香の部屋へ向かった。里美は重幸の病院へ連絡をしてくれている。


 春香はそっと椅子から立ち上がると、VIPルーム前に広げたプレイマットの上で、何かあったのかという表情で春香を見ている凱央の頭を撫でた。


「凱央。ママね、病院に行かなきゃいけないの。赤ちゃん、生まれるんだよ。凱央がお兄ちゃんになるの」

「アタタン、クユ?」

「そう。ママ頑張るね」

「マッマ、バンバエ」


 凱央には理解は難しいかも知れない。だが、ちゃんと説明をするのが雄太と春香の子育てなのだ。


「春香、荷物は積んできたぞ。凱央のお出かけリュックもだ。今、どんな感じだ?」

「ありがとう、お父さん。たまにピリッて感じ」

「そうか」


 里美が着替えを済ませ店内に戻ってきた。


「じゃあ、直樹。後はお願いね」

「おう。片付けたら病院に向かうよ」

「ええ。凱央、ママとバァバとお出かけよ」

「アイ、バァバ」


 里美に向かって手を挙げて答える凱央は、馬のぬいぐるみを抱き締めた。お出かけには欠かせないお供だ。


 ゆっくりと歩く春香の背を見送りながら、直樹はプレイマットの上のオモチャ達を籠にしまっていった。


(二人目……か。今回も性別も教えてくれなかったな。良いんだけどさぁ……)


 春香に訊ねたら、生まれてからのお楽しみと言われた。名前はどうなのかと訊ねたら、もう決まっているという答えが返ってきた。


 凱央の時と同じように決めたのかと訊ねたら、今回は雄太の案だと言って嬉しそうに笑っていた。


(雄太が考えた名前か。楽しみだな)


 施術が終わった客が会計をしにカウンターに近づいた。直樹は、営業スマイルを浮かべカウンターの中に入った。


(よし、後二人だ。施術と会計が済んだら病院にダッシュだな。俺が行くまでに産まれてる……とかないよな?)


 とにもかくにも、早く病院に行きたい直樹は、今出来る片付けなどをしながら、きっちりと仕事をこなしていった。





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