65話
(おっさんって、おっさんっ⁉ 何で、市村さんがおっさんなんかと一緒にっ⁉)
頭の中に、スケベ面したおっさんに付きまとわれる春香の姿が浮かんで来て、雄太は焦りに焦った。
(の゙お゙~っ‼ 市村さんっ‼ 駄目ですっ‼ 市村さんっ‼ おっさんから逃げてくださいっ‼ 市村さんが、おっさんの餌食になるとかあり得ないっ‼)
「あのおっさん、どこかで見たような気がするんだけど思い出せないんだよなぁ~。絶対どこかで会ったような、見たような気がするんだよなぁ~。どこでだっけかぁ~」
真剣に考えてる風にしながら呑気に言う梅野に、雄太が縋る。
「そのおっさんって、どんなおっさんだったんですかっ⁉」
「え? んと……歳は40歳前後って感じだったかな? 市村さんと話してる雰囲気とかで判断して、親子とか親戚って感じじゃないと思う〜。市村さんとは、全く似てなかったしなぁ〜。どっちかって言うと堅気じゃない感じの強面のおっさんって感じかなぁ〜。THEおっさんって感じだったよぉ〜。ねぇ、鈴掛さん」
梅野はニコニコと笑いながら、鈴掛に話を振った。
「梅野ぉ……。それ、雄太に言うかぁ~?」
鈴掛は左手で顔を覆い天を仰いだ。
「す……鈴掛さん……。本当なんですか……?」
雄太が恐る恐る訊くと、鈴掛は頷いた。
「はぁ……。そうだよ。俺も誰か思い出せないんだが、確かにおっさんと一緒だったぞ。競馬新聞持って、サングラスかけてたな。パドックで馬を指差して、おっさんが何か話して春香ちゃんは頷いてたから、多分馬の見方とか話してたんだろうけどな」
春香がおっさんと一緒だった事も相当ショックだったが、出来るなら 競馬に関する事は自分が教えたかった雄太は、ガックリと肩を落とす。
「市村さんって小さくて童顔で可愛いし、ナンパされた……とか?」
梅野が『声だけ』は真面目に言う。
「ナンパっ⁉ おっさんがナンパするんですかっ⁉」
雄太が驚き叫んだ後に頭を抱えると、梅野は更に続けた。
「市村さんって、親父ウケ良いですもんねぇ~。ねぇ、鈴掛さん」
「誰が親父だ。俺は、まだ三十だぞ? んな事を言うなら、コーヒーをソファーにブチ撒けるぞ」
鈴掛はそう言って、ソファーの上でカップを傾けた。
「やめてくださいよぉ~。このソファー気に入ってるんですよぉ~。それに、イタリア製で高かったんですからぁ~」
そんな二人のやり取りも、雄太の耳には届かなかったし、目にも映らなかった。
「市村さんがナンパ……。競馬場でナンパするおっさんが居るんだ……。梅野さんみたいな人がおっさんにも居るんだ……」
鈴掛の手からカップを奪った梅野が
「雄太ぁ~。言っとくけど、俺はナンパなんてしないからなぁ〜?」
と不服そうに言った。
「そうだよなぁ~。勝手に女が寄って来るから、据え膳食わぬはって奴で、片っ端から喰ってるだけなんだよな?」
コーヒーを奪われた仕返しとばかりに 鈴掛が言う。
「人聞きの悪い事を言わないでくださいよぉ~。俺は紳士ですよぉ〜? 特に、可愛い女の子には完璧な紳士なんですからねぇ〜?」
「紳士は紳士でも、変態紳士って奴なんだよな?」
いつも通りの会話が繰り広げられていく。
「競馬場の変態紳士の梅野さんが おっさんでナンパ……。片っ端から可愛い女の子で……。」
「雄太ぁ~。言ってる事が支離滅裂だぞぉ〜? しかも、俺は二十歳だぁ〜。おっさんじゃないからなぁ〜?」
立派な大人なのに、男子高校生のようなじゃれ合いをしている鈴掛と梅野を見ながら
(俺の敵は、イケメンだけじゃなく おっさんもなのかぁ……。市村さぁ……ん……)
とクラクラして来る雄太だった。




