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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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652話


 4月12日(日曜日)


 阪神競馬場で開催された桜花賞に雄太、純也、梅野の三人が出走していた。


「凄い……」


 待合のテレビを男性おじさん達と見ていた春香はウルウルと目を潤ませていた。


「おぉ〜。やったな」

「めでたいな。初だろ?」


 画面の中で、高く手を挙げて喜びを爆発させているのは純也だ。


「塩崎さんのお祝いしなきゃ」

「ウ? ウォウ?」

「そうだよ~。純也お兄ちゃんにおめでとうしなきゃなの」

「ウォウ、メートシュル」


 そうは言ったものの、画面に雄太が映らない事に不思議そうな顔をしていた。


 だが、しばらくすると待合の隅に敷かれたプレイマットで積み木をしたりして遊び始めた。





「純也、泣き過ぎだぞぉ〜?」

「嬉しいんすよぉ〜」


 純也は普段のオチャラケキャラからは想像出来ないぐらいに、ボロボロ涙をこぼしながら泣いている。


 梅野だけでなく、一緒に走った先輩達や懐いている後輩達からの祝福を受け我慢が出来なくなったのだ。


「お、雄太。お疲れ」

「梅野さん、お疲れ様です」


 その声で雄太が来たのに気づいた純也が、ガバッと抱きついた。


「俺……俺……。やっと雄太と同じG1騎手になれた……」

「おめでとう、ソル」

「雄太ぁ〜」


 どれだけ純也がG1を獲りたいと思っていたかを感じていた雄太は、純也の背中をポンポンと叩いた。


「俺……俺……」

「最高に格好良かったぞ」

「サンキュ……雄太」


 真っ赤な目をした純也は、ゴシゴシとタオルで顔を拭った。


「そう言やぁ、スタンドに直樹先生の姿なかったな?」

「ん? あぁ、そうだな」

「って事は、春さんまだって事だろ?」

「そうだろうな。もしかしたら、帰ってる途中に生まれてたりするかもだけどな」

「そうだな」


 自分の初G1勝利を喜びながら、もしかして凱央の時と同じように直樹が来ているかもとスタンドを見ていた純也の優しさに、雄太は嬉しくなった。





 全部のレースを終えて、車に乗り込んだ雄太は車載電話で東雲へと電話をかけた。


『お電話ありがとうございます。東雲マッサージ店です』

「あ、春香。俺」

『雄太くん、お疲れ様』

「春香が電話番してるって事は、まだなんだな?」

『うん』


 雄太は、まだ生まれていない事でホッとした気持ちが湧いた。


「とりあえず、今から帰るよ」

『うん。気をつけて帰ってきてね』

「ああ」


 予約や問い合わせの電話があるかも知れないからと短く用件だけを伝えて電話を終える。


(あ〜。そう言えば、昔はこんな感じの電話だったな。長く話したかったら公衆電話に行かなきゃなんなかったよなぁ〜)


 そんな事を考えていると、窓をコンコンと叩かれた。


「え? あ、ソル」


 窓を下げると、純也が荷物を抱えて立っていた。


「あのさ、悪いんだけど、草津の駅前まで乗っけてくんねぇ?」

「へ? ああ、とりあえず乗れよ」

「サンキュ」


 純也は助手席に乗り込んでシートベルトを締めた。


「ワリィ。金曜、一緒に乗ってきた先輩の車がエンジンかかんなくてさ。雄太、まだいるかなって思って走ってきた」

「そうなのか。駅前で良いのか? なんなら寮まで送るぞ?」

「良いのか? 早く春さんに会いたいだろ?」


 雄太はニヤリと笑って純也を見た。


「優勝出来た訳じゃないからな」

「ヘッヘッヘ」


 ゆっくり駐車場から車を出す。


「雄太の運転で助手席に乗るのって気分が良いな」

「俺に勝ったってのもあるだろ? しかもG1だしな」

「だな。今まで、雄太の背中ばっか見せられてたからな」


 しばらく走って、雄太は路肩に車を停めた。純也はキョトンとして雄太を見る。


 雄太は車を降りて、自販機で缶コーヒーを二本買って車に戻った。


「車だし、とりあえずこれで乾杯しようぜ」

「雄太ぁ……」


 純也は親友の気遣いが嬉しくて、また涙が滲みそうになる。


「んじゃ、ソルおめでとう。乾杯」

「サンキュ、雄太」


 カコンッと缶を合わせて二人はニッと笑った。

 

 幼馴染みで親友でライバルの純也のG1初勝利は雄太にとっても最高に嬉しいものだった。




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