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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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645話


 3月15日(日曜日)


 阪神競馬場 11R 第40回阪神大賞典 G2 15:45発走 芝3000m


 六頭立てという少頭数であらそわれる事になった第40回の阪神大賞典。アレックスは最重量の斤量59kgだが、オッズは一番人気で1.3倍だ。


(雨だなぁ……。結構降ってるし……)


 結構な雨が降っているので、パドックでアレックスの背に乗った雄太はビニールカッパを着ている。


 バチバチとカッパに当たる雨音が聞こえるぐらいだ。


「アル、頑張ろうな。お前なら、これぐらいの雨なら大丈夫だろ?」


 アレックスは、首をフルフルと振った。たてがみを濡らしている雨粒がピンピンと飛んだ。


「お前、その仕草するとマジで犬だぞ?」


 これから重賞を走るのに呑気だと言われるかも知れないと思いながらも、雄太は相棒の首筋に手を当てた。


 アレックスの気合いが手に伝わってくるような気がした。





 自宅のリビングでテレビを見ている春香と凱央は、雨に煙る阪神競馬場を見詰めていた。


(雨だなぁ……。アル、大丈夫かな? 大丈夫……だよね?)

「パッパ〜、バンバエ〜」


 凱央はアレックスに似た芦毛の馬のぬいぐるみをフリフリしながら、まだ走ってもない雄太へとフライング応援をしている。


「アウ〜、バンバエ〜」

「パパにも、アルにも頑張ってほしいね」

「アイ。バンバエ〜」


 凱央が手にしているアレックスに似たぬいぐるみは、純也がプレゼントしてくれたもので、今一番のお気に入りだ。


 寝る時もしっかりと握っているぐらいだと雄太から教えられた純也はホクホク顔で喜んでいたと聞いた。


 ファンファーレが鳴り響き、少し見難いがゲートに入っていくアレックスが見えた。


(アル、頑張ってね)


 春香は祈るような気持ちで画面を見ていた。




 ゲートが開くと、六頭は綺麗にスタートをきった。馬の背後には水飛沫が高く上がる。


 雄太はアレックスを三番手につけた。雨が降っているのは問題ないようにリズムよく駆け一周目のスタンド前に差し掛かった。





 少頭数だから、アレックスの姿を見失う事はない。それは凱央も同じようで、雄太とアレックスが映ると応援が激しくなる。


「パッパァ〜。アウ〜」

(雄太くんもアルもびしょ濡れだ……)


 スタンド前を映しているはずなのに、少しモヤがかかっているように見えた。


(頑張ってね。雄太くん……。アル……)


 直線コースを過ぎていく雄太の背中を見送った。





 向こう正面に差し掛かってもアレックスは落ち着いて駆けていて、雄太は少しずつ順位を上げるべく加速させていく。


 4コーナーを過ぎ、綺麗にコーナーを回り直線コースに入ったアレックスはグイッと前に出た。


 それを見たスタンドの観客から大歓声が湧き起こる。





「雄太くんっ‼ アルっ‼」

「パッパァ〜。アウ〜」


 画面の中、アレックスはグングンと加速をしているのが分かるかのように、後続を置き去りにし始めた。


 画面の中、アレックスが激しく水飛沫を上げている。後続馬には、キックバックの泥や芝、水飛沫もかからないぐらいに離れていく。


「もう少しでゴールだよっ‼ 頑張ってっ‼」

「パッパァ〜っ‼ アウ〜っ‼」


 春香は両手を振り上げて応援をし、凱央はダンダンと床を踏みしめ、ぬいぐるみを振っている。


 アレックスは一着でゴール板を駆け抜けた。五馬身差という快勝であった。


「やったぁ〜っ‼ アル、格好良い〜っ‼ 雄太くん、格好良い〜っ‼」

「パッパァ〜。アウ〜」


 凱央はソファーに座る春香に近寄り、膝をぬいぐるみでポフポフと叩いた。


 春香は凱央の頭を撫でた。


「パパにおめでとうしなきゃね」

「ン。パッパ、メートシユ」


 凱央も雄太が勝った事をしっかり理解してきているのだろう。それまで春香が喜んでいるからつられて喜んでいる感じだったのだが、ちゃんとレースを見ている気がしていた。


(凱央が成長してるのが嬉しいな。もうすぐお兄ちゃんになるんだもんね)


 春香はどんどんと雄太に似てくる凱央が愛しくてたまらなくなった。





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