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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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第24章 勝つ事と進む事 636話


 1993年1月1日


 雄太宅で目を覚まし、春香の作った雑煮を食べて、各々挨拶周りに出かけた。




「じゃあ、いってくるな」

「いってらっしゃい。気をつけてね」

「ああ」


 雄太は、春香の手を握り、凱央の頭を撫でた。


 いってきますのキスはない。なぜなら、春香と凱央は鷹羽の家で、雄太の挨拶周りが終わるのを待つ事にしていて、春香達の後ろには理保が立っているからだ。


「母さん、春香が無理しないように見張っててよ?」

「任せなさい」

「えぇ〜。私、信用されてない〜」

「ふふふ」


 雄太は、理保に春香の監視を任せて出かけた。拗ねたような春香に理保は小さく笑った。


 安定期に入ったとは言え、長時間挨拶周りに付き合わせるのも嫌だし、途中で凱央が眠ってしまったりしても大変だしと雄太は考えた。最終的には実家に行くのだからと、春香と凱央は鷹羽家で留守番している事になった。


「さぁ、そろそろお客様がいらっしゃるわ。春香さんは、たまにお茶出ししてくれるかしら」

「はい、お義母さん」


 春香がじっとしているのが嫌いな上、嫁ぎ先で何もしないのも嫌だと知っている理保は春香に笑って言った。


 理保の気遣いを嬉しく思った春香は、雄太に内緒で持参したエプロンを着けた。




「おや、若奥さん。少しふっくらされましたな」

「お子さんは順調ですか?」


 普段会わない人々が、お茶出しをする春香に声をかけてくれる。


「慎一郎調教師(せんせい)も楽しみですな」

「はっはっは。儂が一番楽しみにしてるかも知れんな」


 来客とにこやかに話す慎一郎に頭を下げて、春香は台所へと戻る。


 和室で凱央と遊んでいた理保と交代しながら、夕方までのんびりと過ごした。



 挨拶周りを終えた雄太は、和室で凱央と遊んでいる春香に笑いながら声をかけた。


「春香、無理してなかったか?」

「んもぉ〜。子供に言うみたいにしないでよぉ〜」

「口うるさいぐらいに言わないと、春香は直ぐ無理するからさ」


 ふと、和室の畳の上に転がっているオモチャに目を向けた。少し古びた感じのプラスチックの積み木や車があった。


「あれ? こんなの持って来てたっけ?」

「あら、覚えてないの? これは雄太が使ってたオモチャよ」

「え? そうなのか? てか、覚えてないって」


 雄太は座ってオモチャを手に取った。雄太が使っていたと理保は言ったが、汚れもなく綺麗だった。


「パッパ、アショブ〜」

「お、そうだな」


 凱央と一緒に積み木を積み重ねる。


「この前ね、要らない物を捨てなきゃって思って納戸の整理をしていた時に見つけたのよ。でね、凱央が遊びに来た時にって思って洗って日光消毒してたのよ」

「ありがとう、母さん」


 雄太の記憶にすらない頃のオモチャを大切に残しておいたのかと思うと笑みが漏れる。


「さすがに気に入ってたミニカーは錆びてたのよ」

「だろうな。手で触ってりゃ汗とかで錆びるだろうしな」

「ええ」


 雄太の小さな頃を懐かしむような理保の笑顔は優しさに満ちていた。


「雄太くんの好きなミニカーってどんなのだったの?」

「え? あ〜。小さい時のは覚えてないけど、物心がついた頃はポルシェとかフェラーリとかが好きだったな」

「スポーツカーなんだぁ〜」

「格好良いものに憧れる年頃だったんだろな」


 カラフルな積み木でお城のようなものを作る雄太の横顔は、やはり理保に似ているなと春香は思った。


「スポーツカー乗らないの?」

「え? 今は良いよ」

「ガレージ余裕あるんだし買っても良いんじゃない?」


 雄太宅のガレージは、まだ三台は置けるだけの余裕がある。しかも、雄太の収入は車を買っても非難される事はないぐらいにあるのだ。


「ん〜。そうだな。子供の手が離れてから、春香とデート用に買うかな。それまでは良いよ」

「うん」


 二人目の子供の手が離れるのは約十八年後だ。その頃でもデート用にと言ってもらえるのが嬉しくて春香は満面の笑みを浮かべながら頷いた。


 この二人が結婚をし、可愛い孫がいる事が、何よりの幸せだと思って理保は笑って雄太達を見詰めていた。




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