635話
12月31日(火曜日)
忘年会は既にやったのだが、一緒に年越しをしようと言って、また鈴掛達は雄太の家で昼から宴会をしていた。
今回は、鈴掛達が色々と食べ物や飲み物を買ってきたので、春香的には楽だった。
「これ、俺がよく行くイタリアンの店で頼んだんだよぉ〜」
梅野のお気に入りの店からオードブルの大皿が届いた。
鈴掛は居酒屋に、純也は焼き鳥屋に盛り合わせを届けるように依頼をしてくれていた。
「相談してなかったのに、上手くバラけたな」
「そっすね。ダブっても俺は美味い物ならオッケーっすよ」
そんな感じで年越し宴会は始まり、純也が持ち込んだポータブルのカラオケ機器で歌を歌ったりした。
「うわぁ〜。塩崎さん歌上手いですね」
「え? そっすか? 照れるっす」
春香がパチパチと拍手をする。純也らしく明るい歌で、凱央も嬉しそうだった。
「んじゃ、俺も歌うぞぉ〜」
「ラブソング禁止な?」
「えぇ~っ⁉ 俺のラブバラードを聴いてくださいよぉ〜」
「誰に聴かせるつもりなんだよ?」
鈴掛と梅野の掛け合いが面白く、春香は一生懸命に笑いを堪えていた。
「雄太も歌うか?」
「……やめとく」
「雄太、音痴だも……フガッ‼」
雄太が純也の口を塞ぎ、それを見た春香が目を丸くする。雄太がゆっくりと春香のほうを見る。
「雄太くん、音痴だっけ?」
「……ノーコメントだ」
「そう言えば、雄太くんの歌ってるの聴いた事がないね」
「……俺が歌う必要ないからな」
棒読みっぽくなる雄太の肩を梅野が抱いた。
「凱央に子守唄を歌ってやった事もないのかぁ〜?」
「……ない……ですね」
「じゃあ、歌ってみようかぁ〜?」
梅野に言われて、雄太の頬がピクピクと引きつる。
「……子守唄は春香の担当です」
「春香さん、歌上手いのぉ〜?」
鈴掛達の視線が春香に集まる。春香は少し頬を赤らめた。
「上手くはないですよ? 多分、一般的なレベルだと」
「じゃあ、俺とデュエットしようかぁ〜」
雄太が純也の口から手を離し、春香を抱き締める。
「駄目です。春香は俺のですから」
「そんなヤキモチ妬きかた初めて見たぞぉ〜」
鈴掛達は腹を抱えてゲラゲラと笑い転げた。
「今年も終わるな」
「うん。色々あったね」
「のんびり過ごすつもりだったのに、何でこんな事になってるんだろなぁ〜」
雄太は振り返り笑った。
リビングでは、純也達が転がってグーグーと寝ている。
「今日は、みんな酔っ払うの早かったねぇ〜」
「だよな。まぁ、楽しんで呑んでたみたいだし良いよな」
「うん」
大晦日らしい冷え冷えとした空気を感じ、雄太は春香の体をギュッと抱き締める。
「寒くないか?」
「コート着てるから大丈夫だよ。それに、雄太くんにくっついてたら温かいもん」
「そっか」
灯りの少ない田舎らしく、満天の星がキラキラと瞬いている。
「あ、流れ星」
「おぉ〜。流れ星なんて久し振りに見たぞ」
「だねぇ〜。あ、お願いするの忘れてた」
「へ? あぁ、流れ星が消えるまでに三回願い事を唱えるんだっけ? てか、無理っぽいよな?」
流れ星なんて本当に一瞬だ。三度も唱えるのは、ほぼ無理に近いだろう。
「まばたきするだけで消えてるぐらいの一瞬だもんね」
「春香は、何てお願いするんだ?」
「雄太くんが、ダービージョッキーになれますように」
春香が当たり前と言わんばかりに言う。雄太の胸に温かいものが広がる。
「ありがとうな。その願い、早く叶えてやりたいって思ってる」
「うん。雄太くんの願いってなぁに?」
「俺は……二人目が無事に産まれますように、だな」
「えへへ。ありがとう」
雄太と春香の第二子が産まれるまで後約四ヶ月。
雄太としては、今度こそ立ち合い出産が出来ればと思っていた。週の内、それが出来るのは月曜日から金曜日の午前中なのだから可能性は高い。
「来年は、もっともっと良い年にしような」
「うん」
二人は、遠くから聞こえる除夜の鐘を聞きながら、より良い年にしたいと思いながら、そっとキスをして寄り添った。




