633話
12月23日(月曜日)
凱央と純也の誕生日だけでなく、クリスマスや忘年会を兼ねたお泊まり会込みのパーティーの日。本当なら有馬記念の祝勝会も兼ねたいところだったが、それは来年にと雄太も春香も思っていた。
「お酒とグラスは冷やしたし……」
「野菜は、これだけで良かったか?」
「うん。あ、凱央ぉ〜。それ引っ張っちゃ駄目ぇ〜」
トテトテとリビングを歩いていたり、大人しくオモチャで遊んでいたはずの凱央が、ソファーカバーをグイグイと引っ張っている。
ダッシュで近づいた雄太が、凱央をヒョイと抱き上げた。
「凱央、何で引っ張ってたんだ?」
「パッパ、チュミチー」
「ん? 積み木?」
雄太がソファーのほうを見ると、積み木の一つが背もたれとクッションの隙間にあった。
「放り上げたのか?」
「タウ」
「置いたらコロンって行っちゃったのか?」
「ン」
雄太は、いきなり怒る事はしない。理解出来ようが出来まいが、ちゃんと理由を訊いてから話す。
「分かった。自分でやろうとするのは良い事だけど、後ろにひっくり返る事もあるんだから気をつけろよ?」
「アイ」
積み木を取って、凱央の手に持たせる。
「アート」
「よしよし」
その時、インターホンが鳴りモニターを覗いて玄関へと向かった。
一番に雄太宅に着いたのは純也だ。
「凱央ぉ〜。純也兄ちゃんが来たぞぉ〜」
「ウォウ〜」
純也は雄太達がパーティーの準備をしている間、凱央と遊ぶ係と言うものを雄太から任命されたのだ。
リビングに入ってきた純也の姿を見ると、凱央は乗っていた手押し車から降り、純也に向かってトテトテと近寄った。
「凱央、下馬したら定位置に置かないといけないんだぞ?」
「ウ?」
「ほら、ここに置くんだ」
純也は、いつも邪魔にならないようにと置いているソファーの横まで歩いて行き指差す。
雄太達は凱央と純也のやり取りを黙って見ていた。純也なりの躾なのだと思うので口出しせずにいた。
少し考え込んで純也を見ていた凱央だが、手押し車を押してソファーの横に置いた。
「凱央、よく出来た。良い子だぞ」
「アイ〜」
雄太達が片付ける事を教えてはいたが、上手くいかない事もあった。それが、純也の言う事を聞いて、ちゃんと出来たと頭を撫でて褒めてもらえたのが嬉しかったのだろう。
「塩崎さん、本当に子供の扱いが上手いよね」
「だな。ほんの少し見直した」
「雄太くんたら」
雄太達は、凱央を純也に任せパーティーの準備を進めた。
しばらくして鈴掛達が到着した。リビングのドアを開けた鈴掛が声をかける。
「春香ちゃん。雪降ってきたぞ」
「えっ⁉ 雪ですか?」
キッチンで作業に集中していた春香は窓の外を見る。
「うわぁ〜」
「チラチラだからホワイトクリスマスになるかどうか分かんないけど、クリスマスパーティーには良い雰囲気だよねぇ〜」
「そうですね」
鈴掛と梅野は差し入れをテーブルに置いて、凱央を抱えて遊んでいる純也を見た。
腹を支えてブンブンと振り回されている凱央はキャッキャと声を上げていた。
「純也は遊び係に最適だな」
「体力バカですもんねぇ〜」
「だよな。長距離乗ってもケロッとしてるし」
「お二人より若いからっすよ」
「「うわっ⁉」」
コソコソと話していた鈴掛と梅野の後ろからヌッと顔を出した純也は、いつの間にか凱央を肩車していた。
「まったくぅ〜。おじちゃん達には困ったもんだな。なぁ、凱央」
「オイタン、オイタン」
「と……凱央。俺はおじちゃんじゃないぞ……?」
「オイタン」
「凱央。俺はお兄ちゃんだぞぉ〜?」
「オイタン」
凱央におじちゃん呼ばわりされて呆然とし、引きつった笑いを浮かべる鈴掛達を見て、雄太達は忍び笑いをしていた。
年長の鈴掛はともかく、おじちゃん扱いされた梅野は崩れ落ちた。
「俺は……おじちゃんじゃないんだよぉ……。お兄ちゃんなんだよぉ……」
「オイタン、ダージョーブ?」
「大丈夫じゃないぃ〜」
笑いを堪えきれなくなった雄太と春香は、思いっきり吹き出して笑い出した。




