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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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632話


 12月22日(日曜日)


 師走の風物詩でもある中山競馬場で開催される有馬記念。


 アレックスは惜しくも二着だった。鈴掛も掲示板入りはしたが、馬券には絡めなかった。


「あれは……すごいの一言に尽きるな……」

「ええ……。何も言えませんよ。完敗の一言に尽きます……」


 一着になった馬は14番人気で、単勝は13790円と言う高額配当に、中山競馬場は驚きと感嘆に沸きに沸いていた。


 後検量を終えた雄太と鈴掛は、一着になった鞍上の晴れやかな顔をモニターを見て、次こそはと拳を握り締めた。


「これ言っちゃ駄目なんだろうけど、正直ナメてたぞ……」

「あれで、何で14番人気だったんだよ……」

「何も言えねぇよ、マジで……」


 同じく後検量を終えた騎手達が、口々に荒い呼吸と共に愚痴を吐いている。


「……気持ちは分かるな」

「はい」


 雄太達は苦笑いを浮べながら、歩いていく。


「ま、終わった事をどうこう言ってもな。んで、明日は凱央の二歳の誕生パーティーだろ。子供の成長って早いな」

「ええ。本当に日々成長してますよ。俺、負けてるなって思います」


 雄太も鈴掛も騎手として進化はしている。だが、凱央の成長速度に勝てていない気がするのだ。あまりにも速度が早い。


「俺、お前にはまだ負けるつもりはないが、凱央には勝てないな」

「俺、勝ちたいとか思ってますけど、無理ですね」


 子供の成長と騎手の技術向上を比べるのはおかしいかも知れないが、何となく比べてしまうのである。


「その凱央も二歳だもんなぁ〜。明日の誕生パーティー楽しみたな」

「来る時は泊まりの準備忘れないでくださいよ?」

「ああ。春香ちゃんから忘年会も兼ねてて、お酒たくさん用意しておきますねって言われたからな」

「凱央の誕生日、ソルの誕生日、クリスマス、忘年会……ですね」

「盛りだくさんだよな」


 忘年会には少し早いのだが、まとめてやったほうが良いだろうと思ったのだ。


 妊娠中の春香の負担も考えて、鈴掛達は遠慮しようと言ったのだが、体調も良いし是非と言われては断れなかった。


「慎一郎調教師(せんせい)の家を建てるんだって?」

「ええ。同居はまだ先だって父さんも母さんも言ってたんですけど、子供二人を春香一人だと大変だろうって言ってくれて」

「平日ならまだしも、週末になるとお前は家に居ないもんな」


 鈴掛は、自分の離婚理由に言われた事を思い出したのか、少し声を落とした。


「なんにせよ、春香ちゃんが慎一郎調教師(せんせい)と理保さんが仲良くやってくれてるのが一番だな」

「ですよね」


 世の中の男性は嫁姑問題に無関心だったり、嫁任せだったりする人が多いと聞いた。実際、先輩達から嫁と実家の折り合いが悪く気苦労が絶えないと言う人もいる。


 それがない分、雄太は恵まれているなと思っていた。




 凱央が窓ガラスに張り付き、三十分は経つ。


「凱央〜。お手々冷たくなるよ?」

「マッマ、キリャキリャ〜」

「うん。キラキラして綺麗だねぇ〜」


 凱央が見ているのは、ウッドデッキに置かれているクリスマスツリーだ。モミの木に飾り付けをしてから、凱央は毎夜、窓ガラスに張り付き、納得するまで眺めている。


 この家を建てた時に馬主である月城から贈られたモミの木は、植木職人にお願いして綺麗に整えられている。


「今年も、雄太くんと一緒に飾り付け出来たのが嬉しかったな。クリスマスツリーの飾り付けしたいだなんて思う私の事を、子供っぽいとか思ったりしてそうだけど」


 雄太は、そんな春香を子供っぽいとは思ってはいないけれど、可愛いなと思っている。


 子供らしい事をさせてもらえなかった春香が、凱央と共に楽しんでいる姿が嬉しいのだ。


「ほら、凱央。そろそろネンネの時間だよ?」

「オット、キリャキリャ〜」

「もう少しだけだよ?」

「アイ」


 今、雄太の乗った新幹線はどの辺りだろうかと考える。


(今日の有馬記念は優勝出来なかったけど、来年は勝てるって信じてたいな)


 窓の外のツリーを見ながら、今年のレースが無事に終わった事を嬉しく思った。




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