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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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631話


 雄太達が家に着くと、理保はニコニコと出迎えてくれた。


「急に呼び出してごめんなさいね」

「いいえ」

「良いよ」


 突然の呼び出しなんて、年に一回か二回というところだ。しかも、遠い訳でもない。


「お義母さん、これお裾分けです」

「ありがとう、春香さん。あ、和室のほうに入ってね」

「はい」


 春香が惣菜の入ったタッパーを手渡すと、理保はキッチンに向かった。


 雄太達は和室に向かい、声をかけながらふすまを開けた。


「父さん、話って何?」

「こんにちは」

「おう、来たか。とりあえず座ってくれ」


 雄太達が炬燵に入ると、慎一郎は二人の顔を交互に見た。


「春香さん、二人目が産まれたら大変だろう?」

「え? あ、はい」


 脈略がない話の振り方に、雄太は目を丸くし、春香は素直に答えた。


「前に言ってくれていた敷地内同居の話を進めても良いだろうか?」

「え? じゃあ……」

「ああ。せっかく土地を用意してもらったしな。最初は、もっと儂等が歳をとってからで良いと思ってたんだが、二人目が産まれたら……と理保が言うんだ」


 春香の目が潤み、慎一郎は焦った。


「は……春香さん。どうしたんだね?」

「嬉しくて……。お義父さんとお義母さんが……私の事を考えてくださってるのが……」


 理保が、お茶を持って入ってきて声をあげた。


「お父さん、春香さんを泣かせたんですか?」

「ご……誤解だっ‼」


 理保は膝をつき、お茶を置く。


「冗談ですよ。雄太はさておき、春香さんの意向を訊ねたかったのよ」

「俺、さておかれるのかよ」


 いつものように雄太はいじられる。薄っすらと涙を浮べた春香は笑った。


「雄太が家を建てる時に、儂等の家の設計図も描いてもらってくれていただろう? あれにな、自分達の希望を書き込んでいたんだ」

「それじゃ、本当に敷地内同居をしてくれるんだな」

「ああ。今からだと出産に間に合うかどうかは微妙だがな」


 雄太は、深く頷いた。春香の隣でオモチャで遊んでいた凱央が涙ぐんでいる春香の手を撫でた。


「マッマ、タイタイ?」

「痛くないよ。ありがとう、凱央」


 理保が柔らかい笑みを浮べ、お茶を一口飲んだ。


「春香さんが敷地内同居を望んでくれていて、私も嬉しいのよ。本当の親のように甘えてくれているし、私も娘のように思っているから」

「ありがとうございます。お義母さんが隣に住んでくだされば、私も安心です。よろしくお願い致します」


 春香はニッコリと笑って慎一郎と理保に頭を下げた。


「春香さんが望んでくれてるなら、早速家を建てる事にしよう」

「そうだな。でさ、ここはどうするんだ? 売るのか?」

「売る事も考えたが、誰か住みたいと言うなら貸しても良いと思ってるんだ。家賃収入が小遣い程度にはなるだろうしな」


 売るのも貸すのも慎一郎と理保が決める事だと雄太も春香も思っていた。


「そこのところは父さん達が決めれば良いよ」

「ああ。しばらく騒がしくなるが」

「心配しなくても、防音はちゃんとしてあるから気にしなくても大丈夫だから」


 難しい話だから、凱央には全く分からないのだろう。キョトンとして雄太達と慎一郎達を見ていた。


「凱央に毎日会えるようになるなんて嬉しいわ。でも、のんびりしたいって思ったら遠慮なく言ってね?」

「そうだな。敷地内同居だからって、あまり気を使い過ぎないでくれると嬉しい。ストレスのない関係でいたいんだ」

「雄太のレースを見に行きたいって思ったら行っても良いのよ? 子育てに口出しはしないけど、普段から私に慣れててくれれば、子供達を預かれると思うから」


 慎一郎達の思いが、春香には嬉しかった。


 つかず離れずの距離でいたのだが、どうしても手助けが必要になるだろうと言う事は分かっている。


「ありがとうございます。嬉しいてす。適度に甘えさせていただきます」

(地方遠征や海外遠征の時に、父さんと母さんが春香の傍にいてくれたら安心だな)


 雄太と春香は深く頭を下げた。


 思いかけず慎一郎達との敷地内同居が早く実現し、来年は変化の年になると雄太は思った。





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