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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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627話


 11月24日(日曜日)


 東京競馬場で開催されたジャパンカップ。アレックスは一番人気だったが、惜しくも四着に終わった。


「世界の壁は厚いですね……」

「だな……。厚い上にそそり立ってる気がするぞ……」


 レースを終えた雄太と鈴掛は、大きな溜め息を吐いた。


「けどさ、アレックスは日本馬では一番着順上だったよな」

「それはそうですけど……。けど、やっぱり悔しいですよ」


 アレックスの調子も良かったのにと思うと悔しくて堪らない。


 雄太が目指しているのは世界で通用する日本一の騎手だ。その気持ちは、騎手になりたいと思った時から変わってはいない。


(俺が世界に通用する騎手になりたいのはそうなんだけど……。日本の馬を連れて行きたい。世界で通用して欲しい。そういう事を思っても良い……よな?)


 良い牡馬。良い牝馬。良い血統。良い配合。上手く良い遺伝を持った馬をしっかりと調教していけば、日本馬が世界一になる日がくるだろうと思う。


 その時に、その馬に乗せてもらえて世界一と言われたい。


(諦めたくなんかない……。俺だけじゃ無理だってのは分かってる……。けど、諦めない。絶対に世界で認められるように頑張るんだ、絶対)


 前をしっかりと見据え、進もうとする雄太を見て鈴掛はホッとした。


(こいつは、どこまで大きくなるんだろうな……)


 見た目が優しそうで騎手には向いていなさそうだと思ってた頃より、大人になり、実績を積み、来年になれば二人の子の父親になる。


(正直、俺より上だって思うぞ。けど、はいそうですかって諦めるつもりもないし、抜かされたままでいらんねぇって思ってるけどな)


 雄太はデビュー時から世間の注目を集めたが故に、精神的に追い詰められてしまった事も多い。


 アレックスを降着こうちゃくさせ騎乗停止になった時も、海外で重賞を勝った事で調子にのっているんだと叩かれていた。




 慎一郎厩舎での飲み会での事だ


「言いたい奴は言わせておけ。一々気にしとったら騎手なんてやっとられん。そもそも、自分が出来ん事をグチグチと上から目線で言う奴は儂は好かん」


 慎一郎がそう言って大ジョッキをダンッとテーブルに置いた。


「そうだぞ、雄太。お前は儂等が出来んかった事をやってるんだ。胸を張れ」

「小さい奴ほど、自分を大きく見せたいからグチグチほざくんだ。今度、何か言って来やがったら『じゃあ、お前がやってみせろ』って言ってやれ」


 何故だか飲み会に参加していた辰野や静川も口々に言って、雄太の肩を叩いていた。


 名目は飲み会だと言いながら雄太を励ましたかったのだろう。


(あはは……。ありがたいな……)


 二度と同じようなミスをしない為に色々と考えていた。


 春香と凱央に癒され、仲間達にも支えられ前を向けた。そして、こうやって励ましてくれる人達がいる。


(嬉しいけど……この酔っ払いの群れをどうするんだよぉ〜)


 厩舎での飲み会やバーベキューをやったりするのはよくある事だ。祝勝会を兼ねてやったりもする事もある。


「絶対にミスをしない奴なんておらん。肝心なのは、そのミスから何を学ぶかだ」


 所属の騎手や慎一郎が騎乗依頼して可愛がっている騎手も参加をしており、皆が真剣に話を聞いている。


「何故ミスをしたのか。どうすれば良かったのか。誰もが当事者になる可能性がある。他人事じゃなく、そこから学べ。反省と学習が大事だ。もちろん謝罪もな」


 慎一郎のライバルであり盟友と呼ばれた騎手は落馬をして騎手を引退しなければならなかった。


 故意でなかろうとも、危険な事は避けて欲しいというのが慎一郎の願いだ。


「出来る限り長く無事に馬乗りでいて欲しいと思っている。引退は自分の意思で……が、儂の願いだ」


 そう言う慎一郎の言葉は頼もしかった。


 飲み会が終わった後の面倒を見るのは大変だったが。




 優勝をして堂々と歩いている馬や誇らしげな騎手を見ると、負けるもんかという気持ちが沸き上がる。


(いつか必ず……)


 雄太の胸に、日本の馬で世界をあっと言わせたいという夢が加わった。





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