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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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625話


 朝、雄太が目を覚ますと春香は既に隣に居なかった。ドアの向こうから、凱央の楽しそうな声と、時折春香が声をかけているのが聞こえた。凱央の様子を見ながら朝食を作っているのだろう。


 ボーっと天井を眺めていると、フワッと良い味噌汁の香りが漂ってくる。


(あぁ……。良い匂いだなぁ……)


 グググゥ〜と腹が鳴った。思い出してみれば、昨夜新幹線に乗る前に買った駅弁は一口も口にする事が出来ずに、ついうっかりと新幹線に置き忘れて下車したのだ。


 ベッドから抜け出しドアを開けると、春香が振り返った。いつもの笑顔が目に飛び込んでくる。


「おはよう、雄太くん」

「あ……うん。おはよう」


 雄太の姿を見た凱央が、お気に入りの馬の手押し車に乗って近づいてくる。


「パッパァ〜、アーヨ」

「おはよう、凱央」


 膝をついて凱央の頭を撫でる。パァ〜っと嬉しそうに笑った凱央の笑顔に心が温かくなる。


「もう少しでご飯出来るからね」

「ああ」


 雄太は頷いて、洗面所へと向かった。


(いつもと変わらずにいてくれるのが、こんなにも嬉しいんだな……)


 バシャバシャと顔を洗いながらホッとしていた。




 食事を終え、地下のコレクションルームに行き、週末のレースの見返しをしようとテレビ前の椅子に腰掛けた。


(……ちゃんと見直して、二度と同じミスをしないようにしないと……)


 胸がキリキリと痛む気がしたが、自分自身の技術の向上の為であり自分のミスを直視して反省する為にと、自分を叱咤激励して見始めた。




 問題を起こしたスタートの場面を何度か見ていた時だった。コレクションルームのドアが開いて春香と凱央が入って来る。


 驚いたのは雄太だ。レースの見直しをしている時に春香が部屋に来たり、声をかける事がなかったからだ。


 凱央が歩いたりするようになるまでは、リビングで見ていたりしたが、雄太と遊びたがるからと地下で見るようにしてからは一人で真剣に見るのが通常だった。


「ねぇ、雄太くん」

「どうかした?」

「お出かけしない?」

「お出かけ……?」


 訊き返した雄太の膝の上に凱央がヨジヨジと登ろうとしているのを見て、雄太は凱央を抱き上げた。


「どうした、凱央」

「パッパァ〜、ウーエンチ」

「……ウーエンチ?」

「ン。ウーエンチ」


 凱央が嬉しそうに両手を広げて言うのだが、全く意味が分からない。


 だが、雄太の太ももの上に立ち、屈伸をするようにしながら、何度も『ウーエンチ』と言う凱央の様子から、きっと楽しい事なのだろうと思った。


 部屋着から外出着に着替え、出かける準備をすると春香の車に乗せられた。


 運転席には春香。雄太は後部座席に座り、チャイルドシートに座った凱央の相手をしている。


「ウーエンチ、ウーエンチ」

(ウーエンチって……何だ? 初めて聞いたんだけど……。てか、春香は何処に向かってるんだ?)


 自宅を出て西へ向かっているのは分かるのだが、訊ねても春香は笑っていて教えてくれなかった。


「パッパァ〜、ウーエンチ」

「う……うん」


 凱央はご機嫌で何度も『ウーエンチ』と繰り返していた。


(そう言えば、昨日の降着こうちゃくの事、春香は何も言わないよな……)


 いつもと同じようにニコニコと笑いながら朝食を作り、凱央に食べさせていた。食後もコーヒーを淹れてくれて、金曜日以降に届いたファックスを手渡してくれた。


 それなのに、急に出かけようと言われたのだから、困惑してしまっているのは仕方がないといったところだろう。


(ミスった所は頭に叩き込んだから良いけど……。何処に行くんだろう?)


 雄太に下されたのは開催日六日間の騎乗停止。週末を自宅で過ごす事にするつもりだが、レースに出る以外の仕事はある。


 だから、遠出はしないだろうとは思うが、行き先の予測はつかなかった。


(ま、良いっか。春香が凱央を連れて行きたいって思ったんだろうしな)


 あれこれ想像していても思いつかないのだから春香に任せようと思い、凱央の相手をしていた。


 栗東を出発し、守山市に入り、春香は西へ西へと車を走らせた。





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