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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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621話


 10月6日(日曜日)


 京都競馬場 11R 第26回京都大賞典 G2 15:45発走 芝2400m


 アレックスは最重量の59kgという斤量ではあったが1.1倍という圧倒的一番人気だ。


 馬体も艶々で気合いも充分だと雄太はアレックスの背で思っていた。


「アル、頑張ろうな」


 前をしっかりと見据えているアレックスの肩辺りを撫でる。


「お前の実力なら、前走より1kg斤量が増えたぐらいじゃ、どうって事がないって思ってるからな」


 ファンファーレが鳴り響く。次々とゲートに入って行く。出走は七頭と少な目なので全馬のゲートインの時間は短い。


 ゲートが開き、七頭が揃って綺麗なスタートをきった。




 自宅のリビングで、春香はソファーに座ってテレビを見ていた。


 テレビ画面にアレックスが映ると、凱央が手にしたポンポンを振って体を揺する。


「アウ〜、バンバェ〜」

「凱央はアルが分かるんだね。パパの応援もしてね」

「パッパァ〜、バンバェ〜」


 甘えん坊のアレックスが、レースとなるとキリッとした顔をする。


(アルと雄太くん、似てるんだよね……。レースに対する姿勢とかが……)


 だから、好きだという気持ちが湧くし、色々としてやりたくなるのかも知れないと思っている。


(アル、雄太くん。頑張って……)


 優勝して欲しいと思うが、一番の願いは無事にレースを終えて欲しいという事だ。


 いつも、どんなレースでも、春香は祈り続けている。




 前から五頭目という、出走頭数からすれば後方の位置で、アレックスは一周目のスタンド前を通過した。


 観客席から沸き上がる歓声が京都競馬場を包み込む。


 アレックスは一番人気という事だから、観客の多くはアレックスの馬券を買っているのだろう。


 スタンドの前を過ぎて、第1コーナーへ差し掛かった辺りから、順位が入れ替わってきた。




 順位が変わるたびに春香はドキドキとしていた。


 まだスパートをかけるには早いのだが、何度も雄太の外側を馬が追い抜いたり、下がったりしていた。


(入れ替わりが激しいな……。何でなんだろ……)


 画面を見ているだけでは分からない騎手の駆引き。雄太がアレックスにスパートをかけさせているのか、他の馬がスピードを上げたのか、素人の春香が判断出来る訳がない。


 ただ、何度もアレックスと鞍上の雄太の姿が映るのを見ている。


(出走馬が少ないと、雄太くんがたくさん映って嬉しいな)


 普段でも真剣な顔をする時があるのだが、その時とは違う勝負の世界で戦っている雄太の顔を見ると頬が赤くなる。


(梅野さんには、結婚してるのに雄太くんに恋をしてる乙女だねってからかわれたんだよね……。でも、そんな感じかも知れない……)


 3コーナーへと向かう雄太の姿に春香の視線は釘付けになる。




 3コーナーの登りを過ぎ、下りに入ると雄太は少しずつアレックスの順位を上げはじめた。だが、他馬もスピードが上がっていく。


 4コーナーを過ぎ、直線コースに入る時は、ほぼ横並びという感じだった。


「雄太くんっ‼ アルっ‼」

「パッパァ〜っ‼ アウ〜っ‼」


 春香と凱央の声が大きくなる。凱央は興奮して足踏みをしている。


「頑張ってっ‼ 雄太くんっ‼ アルっ‼」


 テレビからは、G1かと思うような大声援が聞こえる。多くの人が掲げる競馬新聞が揺れ動いている。


 スタンド前に差し掛かるとアレックスは更にグングンと加速をし、他馬を突き放しにかかった。だが、後続馬も一筋縄では行かない。


「もう少しっ‼ 後もう少しっ‼」


 追い縋る馬と競り合っているアレックスの姿に、負けず嫌いだと言っていた飯塚の言葉が重なる。


 ゴールまで後少しというところで、アレックスは独走態勢に入ると、そのままゴール板を駆け抜けた。


「キャア〜。勝ったぁ〜。凱央、パパとアルが勝ったよ」

「パッパァ〜、パッパァ〜」


 画面の中、甘えん坊であるが凛々しいアレックスが堂々と駆けていた。


 その姿に春香は拍手を送っていて、凱央はポンポンを振りながら喜んでいた。




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