第23章 アメリカと日本 611話
北海道遠征から戻った雄太は、アメリカ遠征の準備を進めていた。
自室で、持って行く服を選びトランクの上に置く。その横には、春香や凱央の写真を入れたミニアルバムがある。
(アメリカ……。今度こそ勝ちたい……)
前回は不甲斐ない成績で終わってしまい、今度こそという気持ちが胸に満ち溢れていた。
「雄太くん、ちょっと休憩しない?」
「あ、ありがとう」
春香がアイスコーヒーをベッドサイドのテーブルに置いてくれる。
「凱央は、まだ昼寝中?」
「うん。遊び疲れたからか大の字で寝ちゃってるよ」
しばらく起きないだろうと思った雄太は、春香の手を引いて抱き寄せる。
「どうかしたの?」
「ん? ちょっと春香チャージしたくなった」
「うん」
春香も雄太の体に腕を回して、胸に顔を寄せる。トクントクンと雄太の心臓の音を聞いていると、なぜか安心するのだ。
雄太に寄り添っていると、母親の顔を忘れて一人の女春香になる。恋人同士の頃に戻ったような雰囲気になり、お互いの体を抱き締めた。
「あ、アメリカで誕生日のプレゼントを買ってくるとかどうだ?」
「ん〜。アメリカって物価が高そうじゃない?」
「誕生日のプレゼントなんだから良いんだって」
雄太はブランド物にこだわる性格ではない。良い物を買うという事がブランド物であったり、高価な物になるだけなのだ。
春香も同じで、良い物を丁寧に使い長持ちさせるのが身の丈に合っていると言う。
「服は……だめだよね。サイズ合わないもん」
「あ〜。てか、春香の場合はどこのでも……だろ?」
雄太が、春香の胸をジッと見る。そんな雄太の頬を春香は両手で引っ張る。
「雄太くんのエッチ」
「ほうひゅういひららくへ(そう言う意味じゃなくて)、ふへひははへはら(胸に合わせたら)ほへははふぁはいひ(袖が合わないし)、ほほほほらへふぁふぁははいはほぉ(そもそも丈が合わないだろ)?」
「そうだけどぉ〜。雄太くんは胸は小さいほうが良いの?」
「ふへふぁほうほふぁひゃはくへ(胸がどうとかじゃなくて)、ほへははふはふぁふひはんは(俺は春香が好きなんだ)」
頬を膨らませ、雄太の頬をブニブニと引っ張っている春香。そんな春香を可愛いと思ってしまう。
「私も雄太くんが雄太くんだから好き」
雄太の頬から手を離して、またギュッと抱きついた。
(本当、可愛いんだから)
ふと思い出したような感じで、春香が顔を上げる。
「ね、この前雑誌で見たワイングラスって、アメリカのブランドのじゃなかった?」
「あぁ〜。あれティファニーだったな」
「あれが良いな。雄太くんとペアで」
「お、良いな。じゃあ、あれにしようか。時間がなくて買えなかったらごめんな」
「うん」
ブランド物は現地で買わなくても買えるが、お土産であり、誕生日プレゼントという意味もある。
(出来れば買いたいな。時間あると良いんだけど)
レース前に調教もしたい。アメリカの調教師や馬主との繋がりも強固にしておきたい。今後の事を思うと競馬の事を優先したいのだ。そうした事を怒るとか拗ねる春香ではない。
「あ〜。凱央にもお土産買ってこなきゃな。何が良いだろ?」
「アメリカのオモチャってどんなだろうね?」
「オモチャにアメリカっぽいとかあるのかな?」
「キャラクター物とかあるのは知ってるけど、それ以外の違いが分からない……」
自分へのプレゼントより、凱央のお土産のほうが真剣に考えてみえるのは、きっと気の所為ではないなと雄太は思った。
遠慮をしている訳ではない。それは、雄太も分かっているが、たまにはおねだりをして欲しいのだ。
「凱央が大きくなって、手が離れたら一緒にアメリカに行こうな?」
「うん。アメリカでしょ? フランスにも行きたいね」
「楽しみだな」
「うん」
海外に行くなんて夢にも思っていなかったであろう春香を連れて、色んな国のレースに出たい。
(なら、今度のアメリカ遠征は、しっかり実績を残さないとな)
春香と約束した夢。自分自身が描いていた将来の夢。まだまだある夢の一つ一つを着実に叶えて行きたいと強く思う雄太だった。




