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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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602話


 6月9日(日曜日)


 京都競馬場で開催されたG1宝塚記念。前走、同じ天皇賞に出ていた馬に遅れを取りアレックスは二着だった。


(ん……。何が悪かったんだろう……。アルの調子は良かったんたけどなぁ……)


 後検量を終えた雄太は、顔を洗いながらずっと考えていた。


 スタートのタイミング。位置取り。コーナリング。スパートのタイミング。頭の中で何度もリプレイしてみる。


「雄太くん、お疲れ」

「あ、飯塚調教師(せんせい)

「何だ? そのシケた顔は」

「えっと……」

「アレックスの調子も良かった。雄太くんの騎乗も良かった。今回は相手が強かったんだ。儂等は預かった馬が強くなるように調教してるんだ。だったら、相手も強くなる。当たり前だろう?」


 飯塚の正論に、雄太は何も言えなくなり頷いた。


「次は秋だな。アレックスもゆっくり休養させるさ。確約は出来んが、依頼出したら乗ってくれるか?」

「もちろんです」

「他の馬に乗らせんように、早目に依頼するからな」


 ニッと笑って、飯塚は立ち去った。雄太は深く頭を下げた。


(頑張らなきゃな。少しでも勝率を上げられるように、もっともっとトレーニングもするぞ)


 両頬をパンッと叩いて、12Rの準備をしに走った。




 自宅に戻った雄太は、風呂や夕飯を終えてから、地下のコレクションルームでレースの録画を見直していた。


(この馬……やっぱり強いな……。優勝するだけの事はある……)


 鞍上の腕もある。だが、馬の強さを感じた。


 カタン。


「え?」


 小さな音がして、雄太は振り返った。盆を持った春香が、ドアを開けたまま固まっていた。


「邪魔してごめんなさい。もしかしたら起きてるかなって思って……」

「あ、うん。どうしても、見直しておきたくてな」


 春香は部屋に入り、コーヒーをサイドテーブルに置いた。


「ありがとう」

「うん。じゃあ……」


 そのまま出て行こうとした春香の手を握った。


「え?」

「ちょっとだけ、一緒にいてくれないか?」

「うん」


 雄太は椅子からソファーに移動して、両手を広げた。春香はサイドテーブルに盆を置いて、雄太の腕の中に体を収め、春香の温もりを黙って感じていた。


(すごいミスをした訳じゃない……。けど、何だろう……。勝てなかった苛立ち……? アルを勝たせられなかった申し訳なさ……? 自分の不甲斐なさ……かな……)


 きっと、テレビの前で懸命に応援していてくれただろう春香が、何も言わずに寄り添ってくれている。


(全部勝てる訳じゃない……。けど、もっと勝率を上げたい。信頼される騎手になりたい)

「あ、そうだ」

「ん? どうした?」


 しばらく雄太の胸に頬を寄せていた春香がふと顔を上げた。そして、立ち上がるとトレーニング機器が置いてあるほうに手を引く。


「ちょっと見て欲しいんだぁ〜」


 そう言って木馬に跨って、鐙に足をかけ、グッと腰を上げて騎乗姿勢を取った。


「え?」


 手綱をギュッと持ち、グングンと追いだした。


(ちょっ‼ ちょっ‼ いつの間にっ⁉)


 安定した姿勢、力強い追いかた。鞭こそ持っていないが、雄太が競馬学校に入った頃と変わらないぐらいだと思えた。


「フハァ〜。まだね、一分ぐらいしか出来ないけど……雄太くん?」

「えっと……うん。ちょっとビックリした……。いつの間に……」

「凱央が昼寝してる時とかにやってたの。ただ、息が続かなくなるんだよね。持久力がないのかなぁ〜」


 競馬学校の生徒でもないのに、ここまでやれれば十分ではないかと思いながら、春香をマジマジと見る。


 初めて乗馬をした時は、鐙の長さが競馬とは違ったから騎乗姿勢が取りにくかったのではないかと思ったのだ。


(本当に……競馬学校に行ってたら、騎手になれたかも知れない……)


 騎乗姿勢だけでは騎手になれないのは分かっているが、そんな未来もあったのかもと想像してしまった。


(そうだな。未来は変わる。変えられる未来もある。次は良い結果を残せるように頑張ろう)


 春香の笑顔に、良い未来を誓った雄太だった。





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