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君と駆ける······  作者: 志賀 沙奈絵


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599話


 4月28日(日曜日)


 京都競馬場 10R 第103回天皇賞・春 G1 15:40発走 芝3200m


 そうそうたるメンバーが揃っていたが、アレックスは断然の一番人気の1.7倍。


 快晴の京都競馬場に約11万人もの観客が詰めかけている。


「アル、良い天気だな」


 アレックスは馬房にいる時とは別馬かと思うぐらいの闘争心で目がギラついているような感じがしている。


 だからといって入れ込んでいる訳ではない。ファンファーレが鳴り響いても、ゲートに入ってもドッシリと落ち着いているのだ。


(大した奴だよ、本当に。調子は良いし、俺はペースと位置取りを考えれば良いだけだな)


 ガシャンっ‼


 ゲートが開いて、アレックスはタイミングよくスタートをきった。




「アル、頑張って」

「アウ〜、アウ〜」


 テレビの前で、春香と凱央は精一杯声援を送る。春香の作ったポンポンを両手に凱央は屈伸運動をするかのような動きをしていた。


 春香も真似をしてみるが、画面に集中すると動きが止まる。


(アル、本当に気持ち良さそう。3200メートルなんて、私には無理だなぁ〜)


 キリリとした顔をして芝の上を駆けるアレックスは本当に格好良いと思う。


(最後まで頑張ってね)


 祈りながら一生懸命にポンポンを振っていた。





 アレックスは先行集団の中にいた。周りの馬のペースに飲まれないように、雄太はリズムをとりながら周りの気配をしっかりと感じていた。


 一周目のスタンド前に差し掛かり、大きな声援が沸き起こる。それでもかかる事なく、外側から追い抜かされても、アレックスは悠々と駆けている。


 ちょこちょこと順位は変わったりしているが、アレックスは安定した走りで向こう正面へさしかかった。




(アル、頑張ってっ‼)


 他の馬に追い抜かされて、順位が下がるたびにドキドキとしてしまう。何度も見てきたレースだが、やはり手に汗がにじむ。


 順位が下がったからといって、雄太が焦って前に行かない事も分かっている。


 今でも、レースの事を詳しく訊く事はしなかった。鞍上の騎手にしか分からない事だと思っているからだ。録画を見直して、真剣に分析やデータの蓄積をしている雄太に、声をかけるのも悪いかなという意識もある。


(競馬の事で私が出来るのはサポートする事と応援する事だけ。それ以外は雑音になっちゃうもんね。)


 真剣に見ている画面の中、3コーナーの登りと下りを過ぎ、残り800メートルのところでアレックスがスッと前に出始めた。


(アルっ‼ 雄太くんっ‼)




 4コーナーを周り、直線に向いたアレックスはグングンと加速しながら、堂々と馬場の真ん中を走り先頭にたった。


 地鳴りのような大歓声が競馬場に響き渡る。オッズからして、アレックスの応援をしている人が多いのかとも思うが、アレックス以外の馬を応援している人が叫んでいるのか分からない。


 だが、そんな事は当のアレックスは何も気にはしていないのだろう。ただ、前へ前へと駆けていた。


 他の馬がバテているのもあるが、アレックスのスタミナはまだ切れておらず、他馬を置き去りにゴール板を駆け抜けた。




「勝ったぁ〜。雄太くんっ‼ アルっ‼」


 ピョンピョンと飛び跳ねて喜びを爆発させると、凱央を真似をした。そんな時を抱き上げて、ソファーに座って何度も繰り返すリプレイ画像を眺めると胸が熱くなり、涙が溢れそうになる。


(おめでとう……。雄太くん、アル)





 ゆっくりとスピードを落としながら、雄太は大きく息を吸った。


「アル、やっぱりお前は凄いな。良い走りだったぞ」


 小さく声をかけながら、首筋をポンポンと叩く。さすがに整わない息づかいをしながらも、アレックスは悠々と歩き出した。


「雄太、おめでとう」

「あぁ〜。全く追いつけなかったぁ〜」

「ハァ……。強過ぎだぞ」


 何度経験しても先輩達の祝福が嬉しい。勝てた喜びが胸いっぱいに広がる。


「ありがとうございますっ‼」


 雄太は笑顔で答えて、アレックスをスタンド前に導き、腕を突き上げて観客の声援に答えた。





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